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27歳で取締役としてベンチャー企業の上場を経験して見えた景色

  • 最終更新: 2021年8月17日

今回お話を伺ったのは、アディッシュ株式会社の取締役を務める松田光希(まつだ みつき)さん。松田さんは2015年に新卒でガイアックスに入社し、入社後はM&A担当を経て、同年10月にガイアックス子会社の株式会社GXインキュベートを設立、代表取締役社長就任。ベンチャーキャピタリストとして多数の出資を実行した後、2018年9月よりアディッシュ株式会社へ参画。経営管理部部長兼内部監査室長として2020年3月の東証マザーズ市場への株式公開を推進し、現在はアディッシュ株式会社の取締役に就任しています。
新卒でガイアックスに入社してから、わずか5年という短期間で異例のキャリアを積み上げて来ている松田さんの「これまで」と「これから」についてお伺いしました。
インタビューしたのはガイアックスの荒井智子さん。荒井さんは2013年からアディッシュの前身となる部署に在籍し、ガイアックスに入社したての松田さんの姿も見ていたそうです。当時の様子を振り返りながらお話を進めていきます。

上場未経験者だらけのチームに20代でジョインして、実際に上場を達成するまでの道のり

最初の上司を越えるために、どうしても20代で上場を経験したかった

荒井:ガイアックスに入社してから約3年半でアディッシュに転籍されましたが、転籍のきっかけは何でしたか?
松田:絶対に20代で上場を経験したいという強い思いを持っていたのですが、アディッシュに行くことで、それが実現できそうだったというのが転籍の理由でした。
本当は僕自身が社長として上場したかったんですけど、起業のためのアイデアが思い浮かばなかったんですよね。僕自身は、世の中に対して適応するように色々と自分で工夫をするタイプなので、ペイン(痛み、悩み)を感じにくいんです。自分がペインを感じにくいからこそ、起業のためのアイディアが出てきにくい。
そんなことを考えている時に、アディッシュから「上場準備フェーズで責任者のポジションが必要なんだけど、来ない?」とありがたいオファーをいただいて。
上場準備フェーズで主幹事証券や監査法人が決まっているということは、2〜3年以内には上場するだろうと考え、まさに求めていた状況だったので、転籍を決めました。
荒井:20代でどうしても上場したかったのは、どうしてですか?
松田:最初の上司である上田さん(ガイアックス代表)を超えたかったというだけです。社会のためとかじゃなくて、僕のエゴなんです(笑)。
負けず嫌いの性格が原動力になっていて、例えばザッカーバーグがFacebookを作れたのに、その規模の会社を自分が作れないなんておかしくない?と本気で思っていて。
自分にスキルが必要なら勉強すれば追いつけるはずだし、社会環境が違うならその社会環境を構築したら勝てるはず、と考えるんです。
そこで一番目の前にあるベンチマークが、上司である上田さんでした。僕は「近くにいる人ができたことが自分にできないわけがない」と常に思っているんです。
上場準備フェーズの会社に上場準備責任者として入り、会社を上場させるというポジションでオファーをいただいたので、自分のキャリアプランの中で達成したかったことを、一つ達成しにいけるという思いがありました。
荒井:たくさんの起業家を見てきたから、自分に適した戦い方やポジションを早めに決められたのでしょうね。

上場経験者無しのチームで、上場準備

荒井:実際にアディッシュに転籍してみてどうでしたか?
松田:アディッシュはガイアックスとカルチャーが違うので、最初は「大人しいな」という印象でした。ガイアックスはイケイケな新卒をたくさん採用していて、「イケイケで行こうぜ!」みたいな感じでしたし、僕自身もそういうタイプなので、これはこれで新しい試練だな、と感じました。「やるぞお前ら!」みたいなやり方は響かなさそうでしたし。その組織の風土の中で成果を出していくことを意識しました。
僕はアディッシュを上場させるために入社したので、現場の業務は一切引き受けていませんでした。僕が会話をするのは証券会社の担当者と監査法人と上場準備委員会だけ、という状態だったので、目的が明確でやりやすかったです。
上場準備委員会のチームは、主に4名で頑張っていました。労務と法務の責任者を兼務している方と、経理部長と、管理本部長の杉之原さんがいて、そこに僕がジョインする形でした。
僕がチームに入った時に、すでに型は結構でき上がっていたので、細部を一個ずつ練り上げていった感じですね。
経理部長の方も、法務・労務のトップの方も実務が毎日あるので、基本的に忙しいんです。上場準備にフルコミットできるわけではないので、僕がやるしかない。それぞれの負荷を高めすぎると通常業務に支障が出てしまうし、各自のリソースを考えると結構ギリギリだと感じていました。全員で頑張ってなんとか滑り込みで作業を終えていった形ですね。

「Wordを開いたら体が固まる」ハードワークで故障したのはパソコンではなかった

荒井:仕事が大変すぎて、一時松田さんが体調を崩してしまったという話を聞きました。
松田:忙しすぎてストレス過多みたいになって、軽いうつのような症状が出ていました。
その時は難易度が高いタスクが溜まっていて、積み重なった疲労がキャパを超えた感じでした。Wordを開いたら身体が固まってしまうんです。最初はパソコンの故障だと思ったんですよ。でもちゃんと見たら、僕がキーボードを叩いていなかった。それと同じタイミングで胃が痛くなって病院に行きました。
病院で「ちょっと休んでください」と言われて、1ヶ月間くらいは在宅ワークにしてなるべく遅くまで仕事をしないようにしました。一切残業もしないで、夜テレビを見ながらご飯を食べるのなんて何年ぶりだろう?って(笑)。ちょうどそのまま年末を迎えて、回復しました。
荒井:歩みをゆっくりにして調整して、乗り越えたんですね。投げ出したり諦めたりせずに乗り越えられたのはどうしてですか?
松田:嫌でやっているわけではないので、投げ出すとかはないですね。あくまでやりたくてやっているけれど、単に仕事量がキャパオーバーしている。より正確に言うと、単純にプロジェクトマネジメントにおけるリソースの見積もりの失敗なんです。そこは反省しています。回復すれば自分の平常パフォーマンスでその状況をクリアできることを知っているので、「それだったら回復するだけですね」と機械的に判断しました。

上場は決して「雲の上の出来事」ではなかった

荒井:「20代で上場」という目標を達成したわけですが、振り返るとどんな経験でしたか?
松田:やってみると、「こんなもんか」という感じです。
上場って、もっと雲の上のことのようだと思っていたんです。でも、一回経験してみると、上場は限られた人たちだけが行けるようなところじゃないとわかりました。やるべきことをちゃんとやれば、絶対に通れる門なんだと知れたのは勉強になりました。
荒井:上場準備チームや、関わった人たちに改めて伝えたいことはありますか?
松田:僕と働くと、みんな大変だと思うんですよね。僕は歯に衣着せないので、初対面でいきなり「イケてないっすね」とか普通に言いかねない。社会で生きていたら、気遣いとかあるじゃないですか。でも、僕は「組織のスピードを落とさない」という自分のルールに従っているので、必要のない気遣いはしません。立場も気にしないですし、例え相手が20歳年上だろうと間違っていると思ったことは間違っていると言います。
信念があってわざとそうしているんですけど、周りにいる人は内心大変だと思うんですよ。
だから、こんな自分を受け入れてくださって、本当にありがたく思っています。
それと、上場してから知ったんですけど、アディッシュは組織の人数に対して管理部の人が極端に少ないんですよ。今は全体で775名いるんですけど、それを管理部15名くらいで回していて。今の規模だったら管理部に30〜40名いてもおかしくないのに、その半分の人数でやっているんです。他社の状況を見ていて、「うちの管理部めっちゃ頑張ってるじゃん!」と気が付きました。
そんな日々の日常業務を頑張っている中で、さらに上場準備プロジェクトを組み込んで頑張っていただき、本当に感謝しかありません。
バックオフィスはなかなか表に名前も出ないし、登壇とかしない限りは知られない職業なので外部評価を受けにくいんですけど、この会社の規模で管理部を完璧に回しながら上場準備をやりきったのは、めちゃめちゃすごいなって思います。

27歳で取締役としてベンチャー企業の上場を経験して見えた景色

「もっとできたはず」過去に対する反省が、より高みを目指す糧になる

「いい勘違い」をする人が次世代を作っていく

荒井:ここまでのキャリアを振り返ると、5年間の歩みのスピードは想定通りだったのでしょうか?
松田:遅いと思います。「もっとできた」といつも反省していています。過去のことをよく振り返るんですけど、自分が今持っている知識を当時持っていたら、違う判断ができたと思うんですよね。
僕がもっと貪欲に勉強したり色んな人と話していたら、もっと会社を成長させられたんじゃないか、もっと色んな人を幸せにできたんじゃないか、と思うことはあります。
周りからは「十分働いているから、ちょっと落ち着け」と言われるんですけど、僕は全然そう思っていなくて。世界に対して申し訳なさすら感じています。もっと仕入れて、もっと出す。このサイクルを早くしないといけないのに「何をくすぶっとんねん」と。
そんな思いがあって、最近は上場してから時間ができたので、スタートアップの相談をたくさん受け入れるようにしています。知識は無料で流通すべきで、スキルはみんなが頑張ってそれぞれが手に入れるべき。僕はそういう考え方なので、知識が世の中の色んなところに行き渡っていないのは、経済損失だと思っていて。そこに対しては僕自身の手で何かしら支援していきたいですね。
荒井:今後、松田さんは自分自身の存在をどのように活かしていきたいですか?
松田:この先数十年は第一線にいると思います。
僕が25歳で未経験ながら上場準備責任者になって27歳で上場した姿を見て、「俺にもできるはず」と思う生意気な若者がたくさんいると思うんですよ(笑)。僕がイーロン・マスクやザッカーバーグに対して思ったみたいに、「いい勘違い」をする人が世の中にたくさんいるはずなんです。だから、彼らをちゃんと勘違いさせるべく、第一線で走り続けなきゃなって思います。
同時並行で、そういう人たちがアクセルを踏めるようになるサポートをしていきたいと思っています。今はベンチャーキャピタリストではなくなりましたけど、起業相談も受けています。
最近ではnoteで記事を書いたりTwitterで発信したり、無料の情報発信の機会も増やしています。場合によっては、外部のCFOという形でスタートアップの中に入り、色んなことを整えさせて頂くケースもあり、今後はそういった関わりのある会社が増えていくんじゃないでしょうか。
「先に知っている人が1人いたら、生き残ったのに」という会社がいっぱいあるんですよ。
ビジネス自体は簡単ではないので、競合に勝てなかったりプロダクトが伸びないことは普通に起きますよ。でもそれ以外のことは、わかっている人に任せた方が楽なことが多くて。
バックオフィス系やファイナンス系が全部見られて、かつオペレーションの壁打ちができる人って世の中にあまりいないみたいで、僕の一つの存在意義になるのかなって思います。
荒井:そんな松田さんに助けてもらいたい人は、どうしたらいいですか?
松田:FacebookのメッセンジャーもTwitterのDMも、いただいたメッセージは全部見ますよ。あとは、趣味でLINEのオープンチャットで匿名で色々書いたりしています。

頑張らずに「呼吸をするように」圧倒的な量をこなせるようなセッティングを

荒井:松田さんのようなキャリアを目指したいと思っている方に向けて、何かメッセージをお願いします。
松田:第一に、誰よりも多くインプットをして、誰よりも多く手を動かすこと。それが全てだったんです。一定量インプットし続けて出し切ると、それまでは水中を泳ぎながら仕事をしていたところから、突然浮上する時が来るんですよ。
自分の知識のレベルと、自分に降ってくる業務のレベルを比べると、自分のレベルが上回る瞬間がくるんです。そうなった時に、より高い課題が来るように環境を整備しないといけないのが、実は難しいんですけど(笑)。それの繰り返しです。
とりあえず自分の目に入る範囲にいる、全ての人たちよりも多くインプットと行動を繰り返して、それを5年間やれば圧倒的になります。
荒井:松田さんの場合は、インプットは本がメインなんですか?
松田:本が一番手っ取り早いです。新しい本よりも、2010年より前の古い本がいいですね。生き残っているものなので。あと、孫氏やプラトンなど、古典も一通り押さえておくといいと思います。紀元前に解決されていることって結構あるんですよね(笑)。
ビジネス書も読み、古典も読んで色々とインストールした上で、色んな人と話すのがいいんじゃないでしょうか。
荒井:圧倒的な量をこなされて来ていると思いますが、松田さんが「走り続ける」ために意識していることはありますか?
松田:僕は「タスクリストにあるものは消化しなければならない」というとてもわかりやすいマイルールを作っているんです。僕が自分を鼓舞するのは、年に数回、本当に難易度が高い時だけで、通常は鼓舞しなくてもやっている状態です。
鼓舞するとエネルギーが必要になるので、「頑張る」って非効率的なんですよね。
タスクリストを作って「ひたすら打ち続ける」という本能をいかに引き出すかが勝負です。
頑張らなくても、自分のタスクリストにあるものを上から順にマシンガンで撃ち抜いていく。呼吸をするようにタスクを進める感覚を身につけられたら、そのあとは鼓舞しなくていいんです。

「潰れてしまうのはもったいない」ハードワーカーこそメンタルケアを!

松田:これまで散々ハードワーク感のあることを言っていますけど、人生には色々ありますし、働きすぎると倒れちゃうので、そこは気を付けないといけないですよね。過去に僕も倒れそうになりましたし、友人にも倒れる人がいたんですよ。
僕は割と早く自分で「危ないぞ」というアラートに気が付けるようになっているからまだいいんですけど、そうじゃない人は入院してしまったり、一線から退くことにもなりかねない。そうなると戻って来るのに時間がかかってしまったり、体調的にキツくなったりするので、ハードワーカーほどメンタルケアをした方がいいですね。
コーピングやストレスの対処法をちゃんと勉強して、自分でメンタルケアする方法を新卒1年目とかの若い内に身につけたほうがいい。今風に言うと、レジリエンスを鍛えるのはめちゃくちゃ重要だと思います。鍛えずに頑張って、潰れてしまう人も結構たくさん見てきたので、そうなってしまうのは本当にもったいないなと。
仕事だけ一生懸命やっているとメンタル面が疎かになってしまいますが、コーピングやレジリエンスもPDCAを回していけば鍛えられるので、合わせてやっていくといいと思います。
荒井:松田さんからのお言葉は、本当に説得力があります。キャリアを切り拓いていくためのたくさんのヒントをいただきました。ありがとうございました!
—————
インタビュアー:荒井智子
ライター:黒岩麻衣

編集後記

尖ったエピソードの中にも、若い世代(といっても、松田さんも若い!)への思いやりが滲み出ています。5年間という短期間で濃密な経験をした松田さんだからこそ、できるサポートがあるのだと思います。コンタクトを取りたい方は、ぜひダイレクトメッセージを!

このインタビュー記事の動画も是非ご覧ください


Vision Notes Episode 4 – アディッシュ株式会社取締役 松田光希
『27歳にして上場ITベンチャー企業の取締役になった人の物語』

投資先経営者
1. 「やりたいことがなかった」私が、上場ベンチャーの女性役員になるまでのファーストキャリア
2. 悩んで、向き合い続けたからこそ切り開けた、上場ベンチャーの女性役員というキャリア
3. 上場を経験したからこそできる、「身近な社外の女性役員」という役割
4. 研究者の道を捨てた僕は、カオス真っ只中のベンチャーで、自分の道を切り拓いてきた
5. 「関係の質が成果の質を生む」仕事は人生の大事な一部だから、人と向き合い、チームを大切にする
6. 27歳にして上場ITベンチャー企業の取締役になった人の、新人時代の話
7. 27歳で取締役としてベンチャー企業の上場を経験して見えた景色
8. 情熱が成長曲線を左右する。意図を持つことで働き方は変わる
9. 人間は、人間らしく働こう。 情熱を持って“自分の”ど真ん中を走り続ける
10. 都内7.4%が導入するスマートロックを生んだ男|起業までの道のり
11. “キーレス社会”を実現する|70億円調達、会社を率いた6年半
12. 会社づくりもデザインの一環、漫画家の道から起業家へ
13. 全力の挫折経験が直感力を磨き、TRUSTDOCKという勝負への道を切り拓いた
松田 光希
2015年4月に株式会社ガイアックス入社後、経営管理部M&A担当を経て、同年10月にガイアックス子会社の株式会社GXインキュベートを設立、代表取締役社長就任。ベンチャーキャピタリストとして多数の出資を実行した後、2018年9月よりアディッシュ株式会社へ参画。経営管理部部長兼内部監査室長として2020年3月の東証マザーズ市場への株式公開を推進し、同月取締役に就任。北海道大学理学部卒。
adishVision Notesアディッシュ投資先経営者
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  • 最終更新: 2021年8月17日

今回お話を伺ったのは、アディッシュ株式会社の取締役を務める松田光希(まつだ みつき)さん。松田さんは2015年に新卒でガイアックスに入社し、入社後はM&A担当を経て、同年10月にガイアックス子会社の株式会社GXインキュベートを設立、代表取締役社長就任。ベンチャーキャピタリストとして多数の出資を実行した後、2018年9月よりアディッシュ株式会社へ参画。経営管理部部長兼内部監査室長として2020年3月の東証マザーズ市場への株式公開を推進し、現在はアディッシュ株式会社の取締役に就任しています。
新卒でガイアックスに入社してから、わずか5年という短期間で異例のキャリアを積み上げて来ている松田さんの「これまで」と「これから」についてお伺いしました。
インタビューしたのはガイアックスの荒井智子さん。荒井さんは2013年からアディッシュの前身となる部署に在籍し、ガイアックスに入社したての松田さんの姿も見ていたそうです。当時の様子を振り返りながらお話を進めていきます。

上場未経験者だらけのチームに20代でジョインして、実際に上場を達成するまでの道のり

最初の上司を越えるために、どうしても20代で上場を経験したかった

荒井:ガイアックスに入社してから約3年半でアディッシュに転籍されましたが、転籍のきっかけは何でしたか?
松田:絶対に20代で上場を経験したいという強い思いを持っていたのですが、アディッシュに行くことで、それが実現できそうだったというのが転籍の理由でした。
本当は僕自身が社長として上場したかったんですけど、起業のためのアイデアが思い浮かばなかったんですよね。僕自身は、世の中に対して適応するように色々と自分で工夫をするタイプなので、ペイン(痛み、悩み)を感じにくいんです。自分がペインを感じにくいからこそ、起業のためのアイディアが出てきにくい。
そんなことを考えている時に、アディッシュから「上場準備フェーズで責任者のポジションが必要なんだけど、来ない?」とありがたいオファーをいただいて。
上場準備フェーズで主幹事証券や監査法人が決まっているということは、2〜3年以内には上場するだろうと考え、まさに求めていた状況だったので、転籍を決めました。
荒井:20代でどうしても上場したかったのは、どうしてですか?
松田:最初の上司である上田さん(ガイアックス代表)を超えたかったというだけです。社会のためとかじゃなくて、僕のエゴなんです(笑)。
負けず嫌いの性格が原動力になっていて、例えばザッカーバーグがFacebookを作れたのに、その規模の会社を自分が作れないなんておかしくない?と本気で思っていて。
自分にスキルが必要なら勉強すれば追いつけるはずだし、社会環境が違うならその社会環境を構築したら勝てるはず、と考えるんです。
そこで一番目の前にあるベンチマークが、上司である上田さんでした。僕は「近くにいる人ができたことが自分にできないわけがない」と常に思っているんです。
上場準備フェーズの会社に上場準備責任者として入り、会社を上場させるというポジションでオファーをいただいたので、自分のキャリアプランの中で達成したかったことを、一つ達成しにいけるという思いがありました。
荒井:たくさんの起業家を見てきたから、自分に適した戦い方やポジションを早めに決められたのでしょうね。

上場経験者無しのチームで、上場準備

荒井:実際にアディッシュに転籍してみてどうでしたか?
松田:アディッシュはガイアックスとカルチャーが違うので、最初は「大人しいな」という印象でした。ガイアックスはイケイケな新卒をたくさん採用していて、「イケイケで行こうぜ!」みたいな感じでしたし、僕自身もそういうタイプなので、これはこれで新しい試練だな、と感じました。「やるぞお前ら!」みたいなやり方は響かなさそうでしたし。その組織の風土の中で成果を出していくことを意識しました。
僕はアディッシュを上場させるために入社したので、現場の業務は一切引き受けていませんでした。僕が会話をするのは証券会社の担当者と監査法人と上場準備委員会だけ、という状態だったので、目的が明確でやりやすかったです。
上場準備委員会のチームは、主に4名で頑張っていました。労務と法務の責任者を兼務している方と、経理部長と、管理本部長の杉之原さんがいて、そこに僕がジョインする形でした。
僕がチームに入った時に、すでに型は結構でき上がっていたので、細部を一個ずつ練り上げていった感じですね。
経理部長の方も、法務・労務のトップの方も実務が毎日あるので、基本的に忙しいんです。上場準備にフルコミットできるわけではないので、僕がやるしかない。それぞれの負荷を高めすぎると通常業務に支障が出てしまうし、各自のリソースを考えると結構ギリギリだと感じていました。全員で頑張ってなんとか滑り込みで作業を終えていった形ですね。

「Wordを開いたら体が固まる」ハードワークで故障したのはパソコンではなかった

荒井:仕事が大変すぎて、一時松田さんが体調を崩してしまったという話を聞きました。
松田:忙しすぎてストレス過多みたいになって、軽いうつのような症状が出ていました。
その時は難易度が高いタスクが溜まっていて、積み重なった疲労がキャパを超えた感じでした。Wordを開いたら身体が固まってしまうんです。最初はパソコンの故障だと思ったんですよ。でもちゃんと見たら、僕がキーボードを叩いていなかった。それと同じタイミングで胃が痛くなって病院に行きました。
病院で「ちょっと休んでください」と言われて、1ヶ月間くらいは在宅ワークにしてなるべく遅くまで仕事をしないようにしました。一切残業もしないで、夜テレビを見ながらご飯を食べるのなんて何年ぶりだろう?って(笑)。ちょうどそのまま年末を迎えて、回復しました。
荒井:歩みをゆっくりにして調整して、乗り越えたんですね。投げ出したり諦めたりせずに乗り越えられたのはどうしてですか?
松田:嫌でやっているわけではないので、投げ出すとかはないですね。あくまでやりたくてやっているけれど、単に仕事量がキャパオーバーしている。より正確に言うと、単純にプロジェクトマネジメントにおけるリソースの見積もりの失敗なんです。そこは反省しています。回復すれば自分の平常パフォーマンスでその状況をクリアできることを知っているので、「それだったら回復するだけですね」と機械的に判断しました。

上場は決して「雲の上の出来事」ではなかった

荒井:「20代で上場」という目標を達成したわけですが、振り返るとどんな経験でしたか?
松田:やってみると、「こんなもんか」という感じです。
上場って、もっと雲の上のことのようだと思っていたんです。でも、一回経験してみると、上場は限られた人たちだけが行けるようなところじゃないとわかりました。やるべきことをちゃんとやれば、絶対に通れる門なんだと知れたのは勉強になりました。
荒井:上場準備チームや、関わった人たちに改めて伝えたいことはありますか?
松田:僕と働くと、みんな大変だと思うんですよね。僕は歯に衣着せないので、初対面でいきなり「イケてないっすね」とか普通に言いかねない。社会で生きていたら、気遣いとかあるじゃないですか。でも、僕は「組織のスピードを落とさない」という自分のルールに従っているので、必要のない気遣いはしません。立場も気にしないですし、例え相手が20歳年上だろうと間違っていると思ったことは間違っていると言います。
信念があってわざとそうしているんですけど、周りにいる人は内心大変だと思うんですよ。
だから、こんな自分を受け入れてくださって、本当にありがたく思っています。
それと、上場してから知ったんですけど、アディッシュは組織の人数に対して管理部の人が極端に少ないんですよ。今は全体で775名いるんですけど、それを管理部15名くらいで回していて。今の規模だったら管理部に30〜40名いてもおかしくないのに、その半分の人数でやっているんです。他社の状況を見ていて、「うちの管理部めっちゃ頑張ってるじゃん!」と気が付きました。
そんな日々の日常業務を頑張っている中で、さらに上場準備プロジェクトを組み込んで頑張っていただき、本当に感謝しかありません。
バックオフィスはなかなか表に名前も出ないし、登壇とかしない限りは知られない職業なので外部評価を受けにくいんですけど、この会社の規模で管理部を完璧に回しながら上場準備をやりきったのは、めちゃめちゃすごいなって思います。

27歳で取締役としてベンチャー企業の上場を経験して見えた景色

「もっとできたはず」過去に対する反省が、より高みを目指す糧になる

「いい勘違い」をする人が次世代を作っていく

荒井:ここまでのキャリアを振り返ると、5年間の歩みのスピードは想定通りだったのでしょうか?
松田:遅いと思います。「もっとできた」といつも反省していています。過去のことをよく振り返るんですけど、自分が今持っている知識を当時持っていたら、違う判断ができたと思うんですよね。
僕がもっと貪欲に勉強したり色んな人と話していたら、もっと会社を成長させられたんじゃないか、もっと色んな人を幸せにできたんじゃないか、と思うことはあります。
周りからは「十分働いているから、ちょっと落ち着け」と言われるんですけど、僕は全然そう思っていなくて。世界に対して申し訳なさすら感じています。もっと仕入れて、もっと出す。このサイクルを早くしないといけないのに「何をくすぶっとんねん」と。
そんな思いがあって、最近は上場してから時間ができたので、スタートアップの相談をたくさん受け入れるようにしています。知識は無料で流通すべきで、スキルはみんなが頑張ってそれぞれが手に入れるべき。僕はそういう考え方なので、知識が世の中の色んなところに行き渡っていないのは、経済損失だと思っていて。そこに対しては僕自身の手で何かしら支援していきたいですね。
荒井:今後、松田さんは自分自身の存在をどのように活かしていきたいですか?
松田:この先数十年は第一線にいると思います。
僕が25歳で未経験ながら上場準備責任者になって27歳で上場した姿を見て、「俺にもできるはず」と思う生意気な若者がたくさんいると思うんですよ(笑)。僕がイーロン・マスクやザッカーバーグに対して思ったみたいに、「いい勘違い」をする人が世の中にたくさんいるはずなんです。だから、彼らをちゃんと勘違いさせるべく、第一線で走り続けなきゃなって思います。
同時並行で、そういう人たちがアクセルを踏めるようになるサポートをしていきたいと思っています。今はベンチャーキャピタリストではなくなりましたけど、起業相談も受けています。
最近ではnoteで記事を書いたりTwitterで発信したり、無料の情報発信の機会も増やしています。場合によっては、外部のCFOという形でスタートアップの中に入り、色んなことを整えさせて頂くケースもあり、今後はそういった関わりのある会社が増えていくんじゃないでしょうか。
「先に知っている人が1人いたら、生き残ったのに」という会社がいっぱいあるんですよ。
ビジネス自体は簡単ではないので、競合に勝てなかったりプロダクトが伸びないことは普通に起きますよ。でもそれ以外のことは、わかっている人に任せた方が楽なことが多くて。
バックオフィス系やファイナンス系が全部見られて、かつオペレーションの壁打ちができる人って世の中にあまりいないみたいで、僕の一つの存在意義になるのかなって思います。
荒井:そんな松田さんに助けてもらいたい人は、どうしたらいいですか?
松田:FacebookのメッセンジャーもTwitterのDMも、いただいたメッセージは全部見ますよ。あとは、趣味でLINEのオープンチャットで匿名で色々書いたりしています。

頑張らずに「呼吸をするように」圧倒的な量をこなせるようなセッティングを

荒井:松田さんのようなキャリアを目指したいと思っている方に向けて、何かメッセージをお願いします。
松田:第一に、誰よりも多くインプットをして、誰よりも多く手を動かすこと。それが全てだったんです。一定量インプットし続けて出し切ると、それまでは水中を泳ぎながら仕事をしていたところから、突然浮上する時が来るんですよ。
自分の知識のレベルと、自分に降ってくる業務のレベルを比べると、自分のレベルが上回る瞬間がくるんです。そうなった時に、より高い課題が来るように環境を整備しないといけないのが、実は難しいんですけど(笑)。それの繰り返しです。
とりあえず自分の目に入る範囲にいる、全ての人たちよりも多くインプットと行動を繰り返して、それを5年間やれば圧倒的になります。
荒井:松田さんの場合は、インプットは本がメインなんですか?
松田:本が一番手っ取り早いです。新しい本よりも、2010年より前の古い本がいいですね。生き残っているものなので。あと、孫氏やプラトンなど、古典も一通り押さえておくといいと思います。紀元前に解決されていることって結構あるんですよね(笑)。
ビジネス書も読み、古典も読んで色々とインストールした上で、色んな人と話すのがいいんじゃないでしょうか。
荒井:圧倒的な量をこなされて来ていると思いますが、松田さんが「走り続ける」ために意識していることはありますか?
松田:僕は「タスクリストにあるものは消化しなければならない」というとてもわかりやすいマイルールを作っているんです。僕が自分を鼓舞するのは、年に数回、本当に難易度が高い時だけで、通常は鼓舞しなくてもやっている状態です。
鼓舞するとエネルギーが必要になるので、「頑張る」って非効率的なんですよね。
タスクリストを作って「ひたすら打ち続ける」という本能をいかに引き出すかが勝負です。
頑張らなくても、自分のタスクリストにあるものを上から順にマシンガンで撃ち抜いていく。呼吸をするようにタスクを進める感覚を身につけられたら、そのあとは鼓舞しなくていいんです。

「潰れてしまうのはもったいない」ハードワーカーこそメンタルケアを!

松田:これまで散々ハードワーク感のあることを言っていますけど、人生には色々ありますし、働きすぎると倒れちゃうので、そこは気を付けないといけないですよね。過去に僕も倒れそうになりましたし、友人にも倒れる人がいたんですよ。
僕は割と早く自分で「危ないぞ」というアラートに気が付けるようになっているからまだいいんですけど、そうじゃない人は入院してしまったり、一線から退くことにもなりかねない。そうなると戻って来るのに時間がかかってしまったり、体調的にキツくなったりするので、ハードワーカーほどメンタルケアをした方がいいですね。
コーピングやストレスの対処法をちゃんと勉強して、自分でメンタルケアする方法を新卒1年目とかの若い内に身につけたほうがいい。今風に言うと、レジリエンスを鍛えるのはめちゃくちゃ重要だと思います。鍛えずに頑張って、潰れてしまう人も結構たくさん見てきたので、そうなってしまうのは本当にもったいないなと。
仕事だけ一生懸命やっているとメンタル面が疎かになってしまいますが、コーピングやレジリエンスもPDCAを回していけば鍛えられるので、合わせてやっていくといいと思います。
荒井:松田さんからのお言葉は、本当に説得力があります。キャリアを切り拓いていくためのたくさんのヒントをいただきました。ありがとうございました!
—————
インタビュアー:荒井智子
ライター:黒岩麻衣

編集後記

尖ったエピソードの中にも、若い世代(といっても、松田さんも若い!)への思いやりが滲み出ています。5年間という短期間で濃密な経験をした松田さんだからこそ、できるサポートがあるのだと思います。コンタクトを取りたい方は、ぜひダイレクトメッセージを!

このインタビュー記事の動画も是非ご覧ください


Vision Notes Episode 4 – アディッシュ株式会社取締役 松田光希
『27歳にして上場ITベンチャー企業の取締役になった人の物語』

投資先経営者
1. 「やりたいことがなかった」私が、上場ベンチャーの女性役員になるまでのファーストキャリア
2. 悩んで、向き合い続けたからこそ切り開けた、上場ベンチャーの女性役員というキャリア
3. 上場を経験したからこそできる、「身近な社外の女性役員」という役割
4. 研究者の道を捨てた僕は、カオス真っ只中のベンチャーで、自分の道を切り拓いてきた
5. 「関係の質が成果の質を生む」仕事は人生の大事な一部だから、人と向き合い、チームを大切にする
6. 27歳にして上場ITベンチャー企業の取締役になった人の、新人時代の話
7. 27歳で取締役としてベンチャー企業の上場を経験して見えた景色
8. 情熱が成長曲線を左右する。意図を持つことで働き方は変わる
9. 人間は、人間らしく働こう。 情熱を持って“自分の”ど真ん中を走り続ける
10. 都内7.4%が導入するスマートロックを生んだ男|起業までの道のり
11. “キーレス社会”を実現する|70億円調達、会社を率いた6年半
12. 会社づくりもデザインの一環、漫画家の道から起業家へ
13. 全力の挫折経験が直感力を磨き、TRUSTDOCKという勝負への道を切り拓いた
松田 光希
2015年4月に株式会社ガイアックス入社後、経営管理部M&A担当を経て、同年10月にガイアックス子会社の株式会社GXインキュベートを設立、代表取締役社長就任。ベンチャーキャピタリストとして多数の出資を実行した後、2018年9月よりアディッシュ株式会社へ参画。経営管理部部長兼内部監査室長として2020年3月の東証マザーズ市場への株式公開を推進し、同月取締役に就任。北海道大学理学部卒。
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