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【投資家の目⑥】お金を調達することが目的ではない!並走してくれる良い投資家がなぜ大切か?

  • 最終更新: 2023年9月15日

スタートアップの聖地・シリコンバレーの企業の日本進出支援を担い、シリコンバレーと日本の架け橋として活動され、且つ投資家として世界のIT業界へ目を配っている、IT-Farm Corporation 代表取締役の黒崎さんとガイアックス代表執行役社長 上田との対談を【投資家の目】というシリーズで公開していきます。
前回の【投資家の目】シリーズ記事では、シリーズ毎の組織の役割やイグジット(出口)戦略について理解を深めました。
シリーズ最後となる今回の記事では、今までの情報を得た上で、投資家選びがいかに重要なのかをお話ししていただきます。

黒崎 守峰

IT-Farm Corporation 代表取締役
株式会社ガイアックス 社外取締役インテル・ジャパンにてキャリアをスタートして以来、デイジーシステム・ジャパン、ウェスタンデジタル・ジャパンを経て1988年(株)アイシスを設立。同社の代表取締役社長として、シリコンバレーのIT系スタートアップ企業の日本進出を支援。日本のトップ企業との戦略パートナーシップ、ビジネス開発、日本支社設立に伴うマネージメントチームのリクルーティングからオフィスの立ち上げ、運用までシームレスにサポートした。経済産業省や総務省の事業・人材育成プログラムの委員の他、ARMのPacific Advisor、国内公開企業の役員等を兼任し、IT関連の日本企業、シリコンバレーの経営陣と、日本屈指のネットワークの広さを誇る。明治大学卒。

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上田 祐司

株式会社ガイアックス代表執行役社長(兼取締役)

1997年、同志社大学経済学部卒業後に起業を志し、ベンチャー支援を事業内容とする会社に入社。一年半後、同社を退社。1999年、24歳で株式会社ガイアックスを設立する。30歳で株式公開。一般社団法人シェアリングエコノミー協会代表理事を務める。

各シリーズの投資家の役割と調達状況

上田: 今回は投資家選びの重要性や資金調達の方法について詳しくお聞きしていきますが、シリーズ毎で資金調達のポイントも変わってくると思います。いかがでしょうか?
黒崎: はい、シリーズAになると、それなりの規模感が出るので、引き続きシリーズBで支援できる土台が完成します。そのため、シリーズAでは、自分たちの企業を理解して投資してくれる「良いベンチャーキャピタル」を見つけることが、最初のハードル・チャレンジになります。良い投資家が見つかれば、その人がシリーズBの良い投資家を見つけてくれますよ。
上田: シリーズAのリードキャピタルが、シリーズBも引き続き支援することもありますか?
黒崎: 支援しない可能性が大きいです。例えば、Treasure Dataの場合は、シードは私たちとビル・タイ、シリーズAはSierra Ventures、シリーズB・Cはまた別のところでした。
上田: シリーズAのホルダーがシリーズBもやる場合は、基準内の規模であれば検討するのでしょうか?外部のもっと大きな規模の投資家が、「もっと多く投資するからリードさせてほしい」と提案してきますか?
黒崎: どちらかと言うと、シリーズAの投資家が、シリーズBの投資家を見つけてくるイメージです。シリーズBで500万ドル必要なら、500万ドルのタームシートを書いてくれるシリーズBのバイスプレジデントを見つけ、その人にバリュエーション(時価総額)を提示し、決めます。
ただ、500万ドル全てを出資しない場合もあるので、その場合は300万ドルを出資するリードベンチャーと、残り200万ドルをシリーズAの投資家が出資するか、外部から見つけてきます。これが理想です。
もし、シリーズBの投資家が見つからず500万ドル調達できない場合は、インナーで500万ドルをプロラタ*1します。シリーズBを延期し、シリーズAの延長として、100万ドルをプロラタで出し合うこともあります。
*1 プロラタ方式とは、既存の比率に応じた比率で出資等に応じること。

プロラタ方式による資金調達

上田: その場合は、みんなプロラタに賛成しますか?
黒崎: 両方あります。ただ、シリーズAの延長で時価総額を上げていないので、賛成しやすいとは思います。シリーズAのベンチャーは、そのぐらいの懐を持っているということです。もしシードの段階で、エンジェルが3000万ドル出資して、次に2000万ドルとなると厳しいですね。
上田: シリーズAの投資家は、シリーズCの際にも、プロラタの参加権はあるのですよね。シリーズAもCも、プロラタの参加権があるのですか?
黒崎: 理論上はありますが、基本的にはシリーズAの投資家が、バリュエーションになった時には、シリーズCのバリュエーションではあまり意味がないので出てきません。
上田: それだったら、新しくて面白いまだ価値の小さい企業へ興味が移りますよね。
黒崎: そうですね。自分たちのミッションとも異なりますよね。シードのSAFEで出現するような個人投資家と、シリーズAの投資家は、方向性が異なります。シリーズAの投資家はプロというか、それなりの規模感を持っています。

シリーズ毎の希薄化

上田: ちなみにシリーズA・B・Cで、例えば時価総額に対して、希薄化は何%程になりますか?
黒崎: 大体10%か20%だと思います。
上田: それでは、「8掛け・8掛け・8掛け」でも大丈夫ですか?急激に希薄化することはありませんか?
黒崎: ないと思います。急激に変化すると困るので、反対するのではないでしょうか。資金もそんなに必要ないと合理的に判断されるでしょう。
上田: 上場する経営陣は何%程、保持しますか?
黒崎: 状況によりますが、ダイリューションしていっているので10%など保持していれば多い方ではないでしょうか。つまり、全て自分のストックオプションを行使させます。全部行使しても、10%以下程度だと思いますよ。20%となると、よくキープできたという印象です。
上田: 先ほどの「8掛け・8掛け・8掛け」で繰り返しても、8掛けを3回繰り返しても、半減するぐらいなので、最後10%とか20%に着地するということは、最初の持ち分がけっこう少ないか、もしくは、ファイナンスの回数がもっと多いかということですよね。
黒崎: 上場前には、もう少し多いと思います。M&Aの選択性もあるので、M&Aで何%残るかにもよります。例えば、1000億円のM&Aであれば、10%保持していると100億円なので、上場するよりも良いと判断されることもあります。
上田: なるほど。創業者が10%なら、他の経営チームやスタッフの合計が10%くらいで、残り80%は投資家が持っていますか?
黒崎: フェーズにもよりますが、投資家は80%も持っていないと思います。ある企業の創業時に、ファウンダーが80%持っていて、シリーズAで40%になり、M&Aの直前くらいで25~30%などと変化します。
経営がうまくいくと、バリュエーションを上げながら資金調達ができるので、20%程は保持できます。

良い投資家に投資してもらうことの重要さ

黒崎: 良い投資家が投資している企業は、想像していないような舞台で活躍できるチャンスが増えます。にも関わらず、株価を高くしたり、持株比率を維持できることだけを重視する企業も多いと感じます。
良い投資家を入れることは、とても重要です。「良い投資家」とは、創業時に良いメンバーを集めて、優秀な人材を採用するためにストックオプションなどのインフラをつくり、イグジットするタイミングを見極めることができる人のことです。
逆に企業のことを考えない投資家が入ってしまうと、月1回の役員会開催や、早期のイグジットなど、自分たちの利益のみを考えた方針を提案してくることがあります。
株価を高く設定するのは、投資家ではなく起業家自身です。トラックレコード(過去実績)を見て、企業の状況やテクノロジー、将来のマーケットを把握して、ビジョンを理解してくれる人が、良い投資家ですね。
その投資家が出資したら、その人のネットワークで他の投資家も参入する可能性があります。投資家の今までのトラックレコードで、他の人にリーチできるということが重要になります。そのため、マジョリティや株価などは、私たちにとっては二の次です。

「良い投資家」は人材の重要性を理解している

黒崎: 先日、こういう例がありました。ある企業は経営がうまくいっており、先月3000万ドルを調達しました。私が投資した時は、女性2人、男性3人の企業でしたが、今では、アジアのある国でNo.1メディアになっています。
今回、3000万ドルの資金調達で、カンパニーバリュエーションもかなり大きくなりました。その後、最初の役員会を開催した際には、CEOとシリーズAの役員、シリーズBの役員などが集まり、企業の方向性などを議論しました。
企業が資金調達したタイミングというのは、人材がすごく大切な時期ということです。これから事業拡大を目指すので、社内の優秀な人材をキープしつつ、新しく採用しなければならないからです。
しかし、投資家は資金調達したからと、なぜ急にCEOなどの給料を上げるのかと疑問視していました。彼らが投資しなければ給料を上げないだろう、ということです。一方で、私たちは「資金調達したから、勝負するために給料も上げる」というロジックなので、両者は議論を繰り返すことになります。
現場のCEO視点で考えると、企業バリュエーションを高くした実績が評価されて、CEO自身が引き抜かれることもあります。今の倍の給料でオファーが来たら、どうするのかと思いますね。
ただ、これは非常に難しい問題で、CEOがどこまで意見を主張するかは状況によります。CEOの意見の通り給料を上げる時には、執行役員などの周りもベース上げやストックオプション、追加コミッションなどを、サポートしなければなりませんね。
CEOと他のボードがきちんと議論することが重要なので、一度に全ての要求が通らなくても、次に持ち越すことも考え、丁寧に交渉してお互い納得のできるところを見つけます。
仲間内でビジネスしている最初の時期は良いのですが、企業規模が大きくなると、このように資金を左右する投資家が入ってきます。その投資家たちは、初期の頃を知りませんし、実際にビジネスをしたこともないので、CEOに高額の給料を払いたくないと考えます。実際投資家たちも、サウジアラビアの王様など、他者から資金を預かっているので、説明責任もあります。
難しい問題ですが、企業を拡大させるためには、ボードを構成する投資家が非常に大切であり、人材の重要性を理解できる「良い投資家」に投資してもらうことが、重要であるということです。
上田:なるほど、今までの話にもありましたが、やはりCEOとボードの関係性が非常に重要ということですね。
各投資家もそれぞれの考えがあり、一筋縄にはいきませんが、CEOは一定の共通した価値観をもつボード構成をする必要がありますね。

ポイント

  • シリーズ毎に違う調達先を探すのが一般的。シリーズAの投資家がシリーズB次の投資家を見つけてくる場合も。
  • シリーズBで調達できなかった場合はインナーでプロラタ方式をとることもある。
  • 「良い投資家」とは、初期のメンバー集め、インフラ作り、イグジットのタイミングを見極める人。マジョリティや株価などは二の次。
  • 「良い投資家」は、人材の重要性を理解して企業の拡大のために最適な判断をする

投資家の目シリーズでは、シリコンバレーを始め、海外のベンチャー企業への投資経験が豊富な黒崎さんに、普段では聞くことができない、海外の投資市場についてお話ししていただきました。
全6記事を通して、海外と比較した日本の投資市場を理解し、海外ベンチャー企業の内部構成から成長過程における「投資家目線ならではの」情報を得ることができました。
全ての記事は当ページ下の一覧から読むことができます。
今現在自身の会社を経営している方はもちろんのこと、これから起業を考えている方も、「投資家の視点で見た」会社経営は非常に重要です。是非このシリーズを参考にしてみてください。
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ライター:千葉憲子
編集:廣渡裕介

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投資家の目
1. 【投資家の目①】シリコンバレーの時代変化とグローバル投資市場の現状
2. 【投資家の目②】Zoomへの初期投資を可能にした「ネットワーク」
3. 【投資家の目③】資金提供者で終わらない「スーパーエンジェル」の存在
4. 【投資家の目④】こんなにも違う!海外と日本スタートアップの役員構成や持株比率
5. 【投資家の目⑤】海外と日本ベンチャーのシリーズの捉え方や出口戦略
6. 【投資家の目⑥】お金を調達することが目的ではない!並走してくれる良い投資家がなぜ大切か?
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