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【投資家の目⑤】海外と日本ベンチャーのシリーズの捉え方や出口戦略

  • 最終更新: 2023年11月10日

スタートアップの聖地・シリコンバレーの企業の日本進出支援を担い、シリコンバレーと日本の架け橋として活動され、且つ投資家として世界のIT業界へ目を配っている、IT-Farm Corporation 代表取締役の黒崎さんとガイアックス代表執行役社長 上田との対談を【投資家の目】というシリーズで公開していきます。
前回の【投資家の目】シリーズ4記事目では、海外スタートアップの役員構成など、企業内部について詳しく紹介しました。
今回はその内容に基づき、シリーズ毎の組織の役割やイグジット(出口)戦略について深堀りしていきます。

黒崎 守峰

IT-Farm Corporation 代表取締役
株式会社ガイアックス 社外取締役インテル・ジャパンにてキャリアをスタートして以来、デイジーシステム・ジャパン、ウェスタンデジタル・ジャパンを経て1988年(株)アイシスを設立。同社の代表取締役社長として、シリコンバレーのIT系スタートアップ企業の日本進出を支援。日本のトップ企業との戦略パートナーシップ、ビジネス開発、日本支社設立に伴うマネージメントチームのリクルーティングからオフィスの立ち上げ、運用までシームレスにサポートした。経済産業省や総務省の事業・人材育成プログラムの委員の他、ARMのPacific Advisor、国内公開企業の役員等を兼任し、IT関連の日本企業、シリコンバレーの経営陣と、日本屈指のネットワークの広さを誇る。明治大学卒。

yuji.ueda

上田 祐司

株式会社ガイアックス代表執行役社長(兼取締役)

1997年、同志社大学経済学部卒業後に起業を志し、ベンチャー支援を事業内容とする会社に入社。一年半後、同社を退社。1999年、24歳で株式会社ガイアックスを設立する。30歳で株式公開。一般社団法人シェアリングエコノミー協会代表理事を務める。

CEOと社外役員の役割

上田: 今回は、海外ベンチャーの組織内の役割について伺いたいと思います。CEOが何か課題を抱えている時は、社外役員などが集まって議論をしますか?
黒崎: そうですね。CEOのいない場で社外役員が集まり、事実確認をしてコレクティブアクションの方向性について話し合うこともあります。創業してすぐの企業は、CEOの個性が強い場合が多いのですが、時には客観的な判断も必要だからです。
しかし、特に創業してすぐは、CEOの強烈な個性で企業が成り立っているので、よほどのことがないとCEOの解任はしません。そのため、CEOとは別にCOOを採用してオペレーションを任せることを提案するなど、様々なアプローチを行います。
上田: COOなどの人材は、すぐに採用できるのですか?
黒崎: ヴァイスプレジデントのネットワークがあるので、問題ありません。アントレプレナー(起業家)のハートを持っている人たちは話を聞いてくれるので、その企業の可能性と問題点を説明して、マッチングすれば迎え入れます。イグジット後に何らかの理由で退社して、また自分で起業するまでの充電期間の人もいるので、大きなファンドはアントレプレナー・イン・レジデンスとして採用することもあります。
例えば、ガイアックスのなかに起業家がいたとして、事業計画書や投資先のサポートにアントレプレナー・イン・レジデンスが必要な場合は、そういう人たちに声をかけることができます。10年間で10社通したら100社になるので、100社のヴァイスプレジデントを採用できたら、1社5人でも500人ですよね。このように、ネットワークができます。
ただ、CEOとボードが離れてしまう恐れがあるので、CEOとオペレーションがうまくいかない状況は、簡単には解決できないことも多いです。
上田: なるほど。よく起こりそうな問題ですよね。
黒崎: 人間関係なので、よく起こりますね。実際に今、私の投資先でも1社あります。テクノロジーは評価しているのですが、リーダーとしては難しいと思っています。
上田: マネジメントがうまくいっていないのでしょうか?
黒崎: そうです。スタッフの入れ替わりが早く、どんどん退社している状況です。
このような時の対応は、企業のフェーズにより変わります。創業後の若いフェーズは、次の資金調達時にレバレッジして、会長の加入を決めることもあります。投資家から見ても魅力的な企業の場合は、シニア人材を追加してミッション分けするなら出資する場合もあります。
他にも、新規企業をつくり人材を流すなど、様々な方法がありますが、経験論から言うとあまりうまくいかないですね。試行錯誤しても結果が出ない場合は、一旦諦めることもあります。「ウェイト アンド シー (Wait and See)」が一番エネルギーも資金もかからないので、時には待つことも良いと思います。
上田: なるほど。ディスカッションやブレストなどは、いかがですか?
黒崎: もちろんやりますよ。役員それぞれの考えは異なりますが、その企業を何とかしなければならないという考えは一致していますよね。CEOに問題がある場合は、COOを入れたり、CEOを変更した場合のメリットとデメリットを話し合ったりします。
上田: そういう会話は、CEOの前で行うのですか?
黒崎: いえ、CEO不在の場です。最終的には、CEOに伝える必要があるので、ボードのチェアマンがCEOと1on1をして話し合います。社外役員の意見にCEOが反対する場合は、戦うか諦めるかは状況によります。
上田: その場合は、引き上げられるのですか?
黒崎: 法律的には引き上げる権利はあります。ただ、実際は資金がないと引き上げようがないので難しいですよね。例えば、シリーズAを目指してNoteで3億円集めたけれど、今の状況では難しい場合は、コレクティブアクションの方法を提案し、賛成するなら支援します。仮に出資企業が10社あるなら、3社を支援し、3社は様子を見て、残りは諦めるということもありますよ。
上田: エクイティ(株主資本)に変わったら、売却できる可能性は出てくるのでしょうか?投資家の立場では「半額でも良いから、売れるのであれば売ってほしい」と思いますか?
黒崎: エクイティに変わっていても、結論的には難しいですね。投資家からすると、そのフェーズまで来ると、日本でもアメリカでも売却はもう難しいと感じます。
上田: ちなみに、チェアマンは社外が一般的ですか?
黒崎: 大体そうですね。チェアマンを置く場合と置かない場合がありますが、チェアマンはボードを仕切る役割があり、社内・社外は企業によります。経験上、アメリカの場合は社外が多く、シード時の投資家などが担っています。チェアマンは、投資家でありメンターでもあるような人物が多い印象です。
上田: シード時の投資家は、経営者側の気持ちも理解している人が多そうですね。
黒崎: そうですね。急に投資家としてベンチャーキャピタルを紹介しても、ベンチャーキャピタルとしては、もう少し形にしてから話をしたい、と思うこともあります。
一方、シード時の投資家は、自分たちが支援したいという気持ちがあり、シリーズA・B・Cと役割や得意分野の異なる人を繋いで支援をします。シリーズAは企業の売り上げを数億円規模、シリーズBは数十億円出せるところのフェーズです。シリーズCは売り上げに加えて、イグジットに対して積極的で、バリューとして何十億円と期待できることが重要です。
そのため、シードやシリーズAは、数十億円のファンド、シリーズBは数百億円のファンド、シリーズCはさらに大きな数百億円のファンドと、規模が異なります。それぞれ繋がっていますが、ABCをトータルで支援することはありません。
上田: ノウハウも違いますよね。
黒崎: はい。ABCと兼任することもありますが、基本的には企業の成長に合わせて関わる投資家も変わります。

経営者のピボット判断を投資家はどう思うのか

上田: 日本では、経営がうまくいかない時はピボット(方向転換)をして、全く別のビジネスを始めることが多いです。海外では一度終わらせますか?別のビジネス次第でしょうか?
黒崎: 海外もありますよ。既存の株式構成のまま、ビジネスの内容だけ変えることもあります。もちろん、一度閉じることもあります。
上田: 日本は同じ企業名のまま、頑張るケースが多い気がします。黒崎さんは、ビジネスがうまくいかない時は、別のビジネスに挑戦した方が良いと思いますか?また、別のビジネスに切り替える場合は、経営者に対する投資家のコミュニケーションはいかがでしょうか?
黒崎: 投資家は基本的には、経営内容に賛同して投資しているので、ビジネスを変更する場合は支援が難しいこともあります。エンジェルとは別で、私たちにも資金提供者がいるので説明ができないこともあるからです。
ただ、不可能ではありません。より良いアイディアがあり方向転換する場合は、投資家が賛同すれば追加資金を調達することもできるでしょう。または、新規投資家に対して、自社の株購入を依頼することもあります。新規投資家が相対で購入する場合もありますが、新規マネーは入ってこないので状況によりますね。
上田: そうですよね。
黒崎: ニューマネーも必要なので、バランスが重要です。
一時ユニコーンになった、「タンゴ」というLINEのような企業は、途中から戦略がうまくいかなくなり、新しいCEOが入ったのですが、企業規模は縮小しユニコーンではなくなりました。オリジナルのCEOが戻ってきて、今でも小さく活動はしているので、私たちは株を持ち続けています。ただ、持っている株をなんとかしたいので、次の資金調達時に株を売るよう、CEOと検討しています。
つまり、別のビジネスを始めることは特殊なことではありません。倒産となると、様々な手続きや責任問題も出てくるので、続けることができるなら良いのではないでしょうか。
上田: 倒産は意外と大変なのですね。しかし、次々に新しいベンチャーが出てくるということは、次々に倒産しているということですよね。
黒崎: そうですね。起業したけれど、資金調達までたどり着けず、倒産する企業はたくさんあります。その場合は、自分たちの資金で起業・倒産しているので、問題はありませんね。

海外ベンチャーはバイアウトをプラスに捉える

上田: 日本と比べて、シリコンバレーで起業した経営者は、売却にもポジティブなイメージでしょうか?
黒崎: そうですね、ポジティブです。イグジットに対する雰囲気が違います。アメリカでは、イグジットは「成功」と認識されますが、日本では「買収されてしまった」というイメージがあります。
日本の大手企業は、買収・売却をする機会が少ないので、新しい組織を受け入れることに抵抗があるのではないでしょうか。アメリカは、元々インド人・中国人・メキシコ人など、バックグラウンドの異なるメンバーが集まっているので、差異を受け入れやすい企業カルチャーなのだと思います。
今後の成長のためには、日本企業も変わっていかないといけないのかもしれません。例えば、ガイアックスのようなパブリックカンパニーが、スピンアウトに加えてスピンイン*1として、M&Aなどに積極的に挑戦すると、少しずつ変化するでしょう。スタートアップ企業をシードで発見して、5~6年かけて成長させるより、ある程度の規模の企業が、10億~30億円などでM&Aをして一気に事業を拡大させる方が早いですよね。
*1 スピンアウトは、社員が独立して事業をおこなうことを意味し、スピンインは社員が起業したベンチャー企業を買収することを意味する。

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海外での上場には知的財産権やIP戦略が重要

黒崎: 日本は、10億円や20億円などで上場している企業が多いですよね。アメリカでは、1億ドルや2億ドルで上場するのは、難しいと感じます。
上田: それは売り上げですか?
黒崎: そうです。Treasure Dataは3000万ドル程でしたが、上場するのには足りなかったので、M&Aになりました。アメリカと比較すると、日本の方はテクノロジーのハードルもなく、知的財産権にもあまりこだわらないので、IPOしやすいと感じます。
アメリカでは、企業を拡大させるためには、知的財産権などのIP(Intellectual Property)ポートフォリオの作成や、IP戦略を練ることが重要です。テクノロジーの優位性も常に保持しなければなりません。スケール感や、北米・ヨーロッパ・アジアへのグローバル展開など、幅広いパラメータで検討するので人材も必要です。そう考えると、それなりの規模で上場しないとサイズ感が合わないので、簡単に上場できないのだと思います。
上田: そうすると、上場する企業は、数百人規模の企業でしょうか?
黒崎: いえ、人数よりもスケールと売り上げです。
上田: 上場コストは、どのくらいでしょうか?日本は年間1億円というイメージです。
黒崎: アメリカも日本と同程度だと思います。日本はIPOが簡単にできますが、アメリカはIPOしたくても難しいので、M&Aという選択肢が出てきます。企業をサポートしているのはファンドなので、ファンドのライフサイクルもあります。企業と10年や20年の付き合いはできないので、一定の期間でイグジットするには、起業家に加えて投資家の意見も重要だからです。
上田: 投資家の意見は、どのくらいの影響力がありますか?日本では、投資家の意見はあまり反映されないような気がします。
黒崎: 投資家の意見というより、ボードの意見です。アメリカのボードは、企業のマネジメントとして1~2人の構成です。例えば、5人いたとすると、2人が社内で、3人が社外のような割合です。社内の2人は起業したファウンダーなどで、社外の3人は出資者の代表から1人ずつ選出されるなどが一般的です。
このようなメンバーでボードが構成されることが多いので、少なくとも半数は投資家代表となります。彼らにとって重要なのは、投資によるリターンを得ることなので、企業を成功させるために意見を出します。
上田: 社内の2人は、起業家と、もう1人はどういうポジションになりますか?
黒崎: 企業規模にもよりますが、起業家とヴァイスプレジデントでしょうか。初期は、Cがつくポジションがあまりないので、経営者とテクノロジー責任者などの2人です。ある程度規模が大きくなると、イグジットが近くなるので、CFOなどの場合もあります。
上田: CFOは、どのくらいの時期に加入しますか?シリーズA・Bくらいでしょうか?
黒崎: 企業によりますが、シリーズBくらいですね。Bで数十億円の調達なら、CFOのコストもあるので、採用しない場合もあります。
上田: CFOの年収はどのくらいですか?2000万円程でしょうか?
黒崎: そうだと思います。ストックオプションがあるので、キャッシュはできるだけ抑えようとコントロールします。1%などケースバイケースですが、最初は特に仕事もないのでCFOを採用することは少ないです。CFOが必要なのは、企業規模が大きくなりイグジット戦略を考えないといけない段階です。
上田: なるほど。バイアウトについては、外部投資家も提案するように、例えば、ヴァイスプレジデントやCFO、CEOなども魅力に感じますか?
黒崎: 個人差があります。例えば、Zoomの前身であるWebExはCiscoに買収されてイグジットしましたよね。今回は上場するという人もいれば、Treasure Dataのように、数年かけて事業を拡大させてから売却することもあります。1回イグジットするためにM&Aをすることもあるので、CEOそれぞれの思いがあると思います。
上田: 日本だと9:1くらいのイメージで売却ではなくIPOを目指すイメージなのですが、アメリカではどちらもよくありますか?
黒崎: どちらもあります。日本は、M&AにポジティブなCEOや経営陣は少ないので、M&Aでイグジットするケースも少ないですよね。企業をサポートしている証券会社やベンチャーキャピタルも、「IPO目指して頑張れ」という方向だと思います。
アメリカでもIPOは目指しますが、IPOした場合、全株売れるかどうかの問題などもあるので、IPOした場合のバリュエーションと、今イグジットした場合で比較検討します。どちらにも良い面・悪い面はありますが、M&Aは全てキャッシュ化できるので、ポジティブなイメージがあるのではないでしょうか。
上田:なるほど、ありがとうございます。

ポイント

  • CEOとボード(社外役員)のバランスの良い働きが重要
  • 日本と比較すると、海外では上場条件が厳しい為、バイアウトにも比較的ポジティブ  (上場につなげる為のM&Aもある。)

今回は海外ベンチャーのCEOと社外役員の関係性、そしてそれぞれの持つ役割とお互いのバランスがいかに重要がお話していただきました。
また、投資家目線での海外ベンチャーのイグジット戦略について深くお聞きすることができました。
次の記事では、投資家から見た資金調達の方法や、いかに良い投資家と出会うことが大切かを実体験を元にお話しいただきます。

【投資家の目】シリーズ続編 (5月2日公開)  ー 【投資家の目⑥】シリーズ毎の資金調達について・並走してくれる良い投資家がなぜ大切か?

ライター:千葉憲子
編集:廣渡裕介

【パネルディスカッション】黒崎さんと上田が語るオープンイノベーションのあり方

アーカイブ動画

パネルディスカッションは [2:41:30] から

SDGsに取り組む社会起業家のための世界最大のスタートアップ・コンテストの日本予選、XTC JAPAN 2021が開催されました。
こちらのイベント内では、「ソーシャルインパクトのために必要なイノベーションのあり方」という題目で、黒崎さんと上田がパネルディスカッションに参加しています。
これからのオープンイノベーションや、社会への価値提供のあり方について最先端の意見が繰り広げられます。
起業や投資に興味がある方は必見のパネルディスカッションになっています。
パネルディスカッション
「ソーシャルインパクトのために必要な、オープンイノベーションのあり方」
・富士通株式会社 FUJITSU ACCELERATOR代表 浮田博文様
・三菱地所株式会社 ソリューション営業二部 主事 山本晃史
・株式会社アイティーファーム 代表取締役 黒崎守峰様(ガイアックス社外取締役)
・株式会社ガイアックス 代表執行役社長 上田祐司(モデレーター)


投資家の目
1. 【投資家の目①】シリコンバレーの時代変化とグローバル投資市場の現状
2. 【投資家の目②】Zoomへの初期投資を可能にした「ネットワーク」
3. 【投資家の目③】資金提供者で終わらない「スーパーエンジェル」の存在
4. 【投資家の目④】こんなにも違う!海外と日本スタートアップの役員構成や持株比率
5. 【投資家の目⑤】海外と日本ベンチャーのシリーズの捉え方や出口戦略
6. 【投資家の目⑥】お金を調達することが目的ではない!並走してくれる良い投資家がなぜ大切か?
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