Skip to content

他人の希薄化、共助の精神、シェアリングエコノミー

  • 最終更新: 2023年11月9日

大学生の頃、面白半分、節約半分で、ヒッチハイクで長距離を移動することがあった。人生初のヒッチハイクは、新潟のフェリーターミナルから大阪の茨木市まで。東京から札幌までヒッチハイクで帰ったこともある。
ヒッチハイクでは、
・親指を立てて腕をあげる
・大きい道路沿いに立つ
・そのうち車が止まって、どこまで?乗るかい?みたいに話しかけられる
というイメージが多いのだけれど、実際は全く異なっている。
まず、親指を立てていても、遠くからは全く分からない。ドライバーからすると、タクシー待ちで手を挙げている人にしか見えない。スケッチブックサイズの紙を用意して、極太マジックで行き先を書ていも、小さいと言われる。一番良いのは、直接駐車しているドライバーに交渉することと知ったのは、けっこう後のこと。また、幹線道路沿いだと、交通量が激しくて停車できないので、目が合っても「あーっ!」という感じで、一瞬で通り過ぎていく。すぐ近くにコンビニやガソリンスタンド、駐車可能なスペースなどがないと、話にならない。ちなみに、ヒッチハイクの待ち時間は、完全に運。5分で拾ってもらえる時もあれば、3時間立っても1台も見向きもしてくれないこともある。過ぎゆくドライバーが、「ヒッチハイクやってるー!」という会話をしているのが、そのうち唇から読めるようになり、少しずつ辛くなり、「なんでヒッチハイクやってるんだろう」というネガティブな気持ちになっていく。
そんな厳しいヒッチハイクの世界において、拾ってくださるドライバーは、まさに、神様。東京~札幌間のような長距離移動ヒッチハイクだと、1台の車では到底たどり着けないので、まずは埼玉まで行って、次は福島、仙台、青森。フェリーで津軽海峡を超えて、函館、富良野、札幌、みたいなルートになるため、5~10台は乗り継ぐ。高速道路のサービスエリアで降ろしていただき、また次の車を探す。見つける度に、ドライバーと会話して、仲良くなって。今まで乗せていただいたドライバーの方は、多分、20人以上になると思う。
ドライバーさんの中には、用事が無いのに遠くまで送ってくださる方、お昼ごはんをご馳走してくださる方、自家製おにぎりをくださる方、地図をくださる方などもいる。見ず知らずの、どこの馬の骨とも分からない若造に対して、信じられないほど親身に接してくれる。ヒッチハイクをしてるのを見て、用事を済ませて30分後に戻ってきたらまだやっていたから、乗せてあげる、という方すらも。
これが、すごい。二度と会わないであろう赤の他人だけど、その場限りの交友関係を、当たり前のように築いている。何のためとか、誰のためとか、損得感情を抜きにして、たまたま、そこに居合わせて、方角が同じだから、乗せてあげる。もはや、乗せてあげるだけで、ほぼ一言も話さなくてもいい。これって、帰り道が同じ方角の友人や同僚がいた時に、ついでに送ってあげる感覚となんら変わらない。友人知人を乗せるか、赤の他人を乗せるかだけの違い。友人知人という、誰かが勝手に決めた概念が希薄化していって、赤の他人と友人知人の境目が曖昧になっていく感覚。気が付くと、知らない人に話しかけることが、友人知人に話しかけることと同じように思えてくる。いや、さすがにそこまではいかないか。
ラーメン屋で、目の前のレジで、会計を終えたお客さんが傘を忘れていく。「あ、傘忘れたかな、取りに来るかな」と思っていると、5秒後に取りに来る。わざわざレジまで取りに戻る前に、傘を取ってあげて、「はいどうぞ」と差し出す。その行為に、下心も承認欲求もない。やったところで自分に得があるかというと、そうでもない。けれど、目の前の人が他人じゃなくて家族だったら、友人だったら。間違いなく傘を差し出すだろうし、きっと、先にこちらから声をかけて呼び止めているはず。他人だからやらない、できないのは、自分が、自分自身を、知らないうちにに世界から切り離しているから。必要最低限のコミュニケーションだけで生きている世界に、慣れて、満足しているから。
もっともっと、他人という概念が、希薄化していけばいい。
「人類皆兄弟」は、ちょっと響きが気持ち悪いけれど、それくらいを目指したほうが、うまくいく。
ビジネスや損得勘定を超えて、そこに歩いている他人が、知人だくらいの感覚で生きていくと、自然に、新しい歯車が回り始める。
シェアリングエコノミーは、遊休資産を活かしたマッチングビジネスという文脈で話されることが多いが、シェアリングエコノミーの本質はそこじゃない。ただのマッチングビジネスやレンタルサービスは昔からある。シェアリングエコノミーの本質は、個と個の得意を活かした商取引から必然的に生まれてくる共助・助け合いの精神と、それによる個人の活躍だ。個人が活躍するサービスだからこそ、埋もれていた個が可視化されてきて、他人が知人のような存在になっていく。
他人という概念が、どんどん希薄化していく。
所有という概念が、少しずつ時代遅れになっていく。
そういう未来に向けて、シェアリングエコノミーが、じわじわと、這うように浸透していく。
GXインキュベートとして、シェアリングエコノミーを支援する会社として、そういう未来を描いている。


松田 光希
2015年4月に株式会社ガイアックス入社後、経営管理部M&A担当を経て、同年10月にガイアックス子会社の株式会社GXインキュベートを設立、代表取締役社長就任。ベンチャーキャピタリストとして多数の出資を実行した後、2018年9月よりアディッシュ株式会社へ参画。経営管理部部長兼内部監査室長として2020年3月の東証マザーズ市場への株式公開を推進し、同月取締役に就任。Anyflow株式会社CFO。北海道大学理学部卒。
関連記事
Back To Top