U25起業家コミュニティ「FAIL UPWARDS STUDIO(以下、FUS)※」では、参加する550名超のすべての起業家に事業立ち上げサポートを受ける権利が与えられるものの、それでも「学生」の「初めての起業」では実に80%以上が1年以内に顧客獲得まで至っていません。売り上げの立たない期間を試行錯誤しながら乗り越えて、創業1年目にして多くの顧客を獲得し、教育業界を変革しようと奮闘する株式会社bestiee・後藤氏にお話を伺いました。
※FAIL UPWARDS STUDIO:ガイアックスが運営するU25起業家支援プラットフォーム。アイディエーションからシード期の資金調達までを中心に、事業立ち上げをサポートしています。このプログラムは東京都のスタートアップ支援展開事業「TOKYO SUTEAM」の協定事業で令和7年度も延長事業者として採択されています。起業家は無料で事業推進の支援を受けることが可能です。事業の状況に応じて、マーケティングやMVP(Minimum Viable Product)開発まで無償で支援するケースも多くあります。また、FUSのコミュニティマネージャーやメンターは全員が起業経験者。実践的なアドバイスを受けられる環境が整っており、初年度の参加者は400名を超え、多くの起業家にとって貴重な支援の場となっています。
CASE1:”ベストティーチ:最高の先生の授業を単発から” 株式会社bestiee 代表 後藤 弘さんインタビュー
株式会社bestiee代表 後藤 弘さん
2001年6月10日生まれ。2014年に開成中学に入学。開成中高時代はクイズ研究部に所属し、『高校生クイズ』で準優勝。2020年に東京大学理科一類に入学。2021年から2024年まで、TBS『東大王』にレギュラー出演。2023年には「ミスター東大コンテスト2023」グランプリに。2024年3月に株式会社bestieeを創業。ハイクラス大学生を軸とした教育・人材事業を展開中。
「誰に教わるか」がすべてを変える──ベストティーチ誕生の背景
――改めて、現在の事業内容を教えてください。
家庭教師サービス「ベストティーチ」を運営しています。
ベストティーチでは、東京大学・早稲田大学・慶應義塾大学・医学部などに在籍する優秀な大学生の中から、面接によって厳選した講師のみをご紹介しています。
授業はオンライン・対面のどちらにも対応しており、学年や教科に応じて柔軟に学習スタイルを設計できます。講師の出身校・出身塾・自己紹介・受講者の声など、詳細なプロフィールをもとにご検討いただけるため、ミスマッチの心配なく先生を選べます。
また、複数の先生を試して比較したうえで選べることも、ベストティーチならではの特長です。相性や指導スタイルを見極めたうえで、納得して信頼できる先生と出会うことができます。
――なぜ現在の事業をすることにしたのですか?
私自身、中学受験のときに「この先生に出会えて本当によかった」と思える経験がありました。義務のように感じていた勉強が、前向きに取り組めるものに変わったのは、その先生との相性がとても良かったからです。この原体験が、「学習において“誰に教わるか”がどれほど大きな意味を持つか」を教えてくれました。
だからこそ私は、子どもたちがそんな“運命の先生”と出会える機会を増やしたいと考え、ベストティーチを立ち上げました。
このサービスでは、講師の出身校や通っていた塾、趣味や価値観など、幅広いプロフィール情報を見ながら、単発で複数の先生を試すことができます。相性の良い先生を見つけやすい仕組みを整えることで、勉強に対する前向きな気持ちや、自信につながる出会いを生み出したい──それが、ベストティーチを始めた理由です。
起業からの道のり:ゼロからの家庭教師プラットフォーム構築
ーー「起業1年目の試行錯誤」について教えていただけますか。
創業期の模索(2024年1月〜3月)
2024年3月に正式に起業しましたが、その準備は年初から始まっていました。当初は知人のネットワークを頼りに先生候補を集め、なんとか講師陣を形成することができました。
しかし、新しいサービスゆえの大きな壁がありました。「信頼感と実績の欠如」です。認知度がない状態で、保護者へのアプローチには苦戦しました。SNS、特にXでのダイレクトメッセージを活用して、一人一人にていねいに説明するところからのスタートでした。
初期の成長と手探りの改善(2024年5月〜7月)
起業から約2ヶ月が経過した5月頃、ようやく顧客がつき始めました。この時期はサービスの根幹的な部分を模索しながら、家庭教師のプラットフォームとしての機能を強化していきました。
具体的には以下の改善を重ねました:
- 講師のプロフィール項目の最適化
- 授業後の報告フォームの内容を使いやすく変更
- ウェブサイトの訴求ポイントを利用者フィードバックに基づいて調整
これらの変更は明確な戦略というよりも、ユーザーの反応を見ながらの手探りの取り組みでした。
ブレイクスルーとサービス拡大(2024年8月〜現在)
真の転機となったのは2024年8月でした。独自のマーケティング施策として、「東大王メンバーがご自宅に指導しに行く」キャンペーンを実施し、サービスの認知度を大きく向上させました。
興味深いのは、認知獲得の要因が時期によって変化したことです。
- 夏までは「東大王」というブランド力に依存
- 秋以降はサービス自体の評価とユーザー体験が口コミの原動力に
この時点での会員登録数は:
- 2024年10月:120名
- 2024年12月:230名
- 2025年4月:400名
と急速に拡大しています。
若き挑戦者たちとサポートネットワーク
――サービス拡大の過程で、チーム構成はどのように変化してきたのでしょうか?
最初は、私と共同経営者の備海、そして彼の大学時代の同期と3名で、事業アイデアを練るところからスタートしました。2024年2月には、デザイナー、エンジニアがチームに参画し、5月にはさらに2名のメンバーが入社し、少しずつチームが拡大していきました。
そして12月には、私と一緒にクイズ番組『東大王』に出演していた仲間もメンバーとしてジョイン。会社の取締役は私と備海の2名体制で、現在のチームは平均年齢23歳の10名構成です。若手ならではのスピード感と柔軟性を強みに、日々、事業を前に進めています。
――その中で、ガイアックスのスタートアップスタジオとの関わりはどう始まったのですか?
会社の登記をしたかしていないかの時期に、TORYUMONというイベントで声をかけていただいたのがきっかけでした。実は共同経営者の備海さんはガイアックスでインターンをしていた縁もあり、スムーズに関係を築くことができました。
TORYUMONでお会いした直後、当時は事業の外形だけができている状態でしたが、ほぼ毎週、壁打ちミーティングを実施いただきました。
特に助かったのは、専門家の紹介や日本政策金融公庫からの融資に関するサポートです。融資のタイミングでの事業計画書の作り方など、全くの手探り状態だった私たちにとって、このサポートは非常に大きな意味がありました。結果として融資は大成功し、資本金100万円に対して1,000万円の融資を受けることができました。
現在も、引き続き事業の方向性や課題について相談する機会があり、大変助かっています。
教育のあり方を変える――bestieeの今後のビジョン
――教育業界に感じている課題は?それに対してどう向き合いたいと思われていますか?
サービスを1年運営してきて、勉強が義務になってしまっている子どもたちを数多く目にしてきました。その一方で、『この先生みたいになりたい』というロールモデルを見つけることで、勉強へのやる気を出してくれる子どもたちも見てきました。
私たちが本当に変えたいのは、勉強に対するイメージやモチベーションの持ち方です。勉強は『やらされるもの』ではなく、『自分の可能性を広げるツール』だと実感してもらいたい。そのためには、単に知識を教えるだけでなく、子どもたちが憧れ、共感できる先生との出会いが不可欠だと考えています。
教育業界の課題は、この『出会い』の機会が限られていることです。従来の学習塾や家庭教師サービスでは、先生を選ぶ自由度が低く、相性の良い先生に巡り会えるかは運次第という面がありました。私たちはこのサービスにより、『出会いの偶然性』を『必然』に変えていきたいと考えています。
――今後の成長戦略について教えてください。
今年中に利用者数を現在の3倍に増やすことを目指しています。今のところ、質の高い家庭教師人材を集めることについては一定の成功を収めていると感じています。
今後の課題は集客力の強化です。良質な講師陣を揃えても、それを必要としている子どもたちや保護者の方々に届かなければ意味がありません。今年中に認知度の大幅な拡大を目指し、マーケティング活動に注力していく予定です。
私たちの強みである『試して選ぶことで、相性の良い先生を見つけられる』という価値提案をより多くの方に知っていただき、教育のあり方を少しずつでも変えていきたいと考えています。
株式会社ガイアックス・投資担当兼インキュベーション事業責任者 前田 桜花 コメント
前田 桜花
受託開発のプログラマーやPM、新規事業の立ち上げを経験後、2020年に株式会社ガイアックスに入社。入社後一貫して起業家の伴走支援を行う。現在はスタートアップスタジオ事業部の投資担当兼インキュベーション事業責任者に就任し、4つのインキュベーションプログラム(スタートアップ立ち上げ支援プログラム)のインキュベーションマネージャーを担当。自身や自社のノウハウを体現した「FAIL UPWARDS STUDIO」を2023年11月に立ち上げ、400名超のコミュニティに成長。支援した起業家は200名を超える。
後藤さんと出会った当初は、アイデアこそあったものの、まだ何も形になっていない状態でした。しかし、共同経営者である備海さんと共に着実に事業を前進させる姿が印象的で、FUSの支援が始まってからの約1年間、その手が止まることは一度もありませんでした。
また、彼は現役学生でありながら「東大王」という輝かしい肩書きを持つ一方で、驕ることなく常に謙虚な姿勢を貫いています。その真摯な姿勢こそが、彼の魅力であり、起業家としての大きな強みだと感じています。
FAIL UPWARDS STUDIOの取り組みは、Xにて定期的に発信しております。