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web3.0とシェアエコの未来は、自律分散型社会を導くのか?ーー初代デジタル大臣、元MITメディアラボ所長伊藤穰一、元エストニア投資庁日本支局長らが語る

最終更新: 2023年11月10日

「デジタル(web3)」と「シェアリングエコノミー(シェアエコ)」がもたらす未来とは、一体どういったものなのでしょうか。

自律的で非中央集権的な新たなインターネットの時代を迎え、web3は日本の国家と経済にどう関わり合い、近い将来どのような世界が広がっていくのか。

20年前博士論文のテーマが「シェアリングエコノミー」だったという、元MITメディアラボ所長の伊藤穰一氏、初代デジタル大臣の平井卓也氏、元エストニア投資庁日本支局長の山口功作氏といった「デジタルの最前線」にいる豪華メンバーのディスカッションを、ガイアックス代表・シェアリングエコノミー協会理事の上田が聞き手となり、お聞きしました。

Index

2022年7月22日、関西・九州・沖縄・東海・東北 に続き6番目の支部となるシェアリングエコノミー協会「四国支部」立ち上げイベント「With Share 四国」が香川県で開催されました。

本記事では、その中から、『「デジタル」と「シェアリングエコノミー」』を題材にした白熱のセッションの様子をご紹介します。

Speakers
衆議院議員 平井卓也氏(初代デジタル大臣)
デジタルガレージ取締役・デジタルアーキテクト 伊藤穰一氏(元MITメディアラボ所長)
香川県DXラボフェロー兼CDO補佐官 山口功作氏
Moderator
代表執行役社長・シェアリングエコノミー協会 代表理事 上田祐司

「デジタル」と「シェアエコ」は経済活動を加速させる

上田 「デジタル」や「シェアエコ」に関連して、最近はどんな取り組みをされていますか。

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上田 祐司

株式会社ガイアックス代表執行役社長(兼取締役)

1997年、同志社大学経済学部卒業後に起業を志し、ベンチャー支援を事業内容とする会社に入社。一年半後、同社を退社。1999年、24歳で株式会社ガイアックスを設立する。30歳で株式公開。一般社団法人シェアリングエコノミー協会代表理事を務める。

平井 政府の方針として、web3を「新しい資本主義」へ書き込みました。新たにスタートアップ担当大臣を設置し、スタートアップの五カ年計画も作成予定です。地域のシェアエコは、地域の課題解決型スタートアップとしては非常に有望。今後は、地方のスタートアップへ自治体が発注しやすくなるよう基金の創設も計画しています。

平井卓也

衆議院議員
1958年香川県生まれ。上智大学卒。株式会社電通、西日本放送社長等を経て、2000年、第 42回衆議院選挙で初当選。以来、連続8回当選。平成30年第4次安倍改造内閣 にて IT・科学技術担当大臣。令和2年菅内閣にてデジタル改革担当大臣。令和 3 年初代デジタル大臣就任。現自民党デジタル 社会推進本部長。シェアリングエコノミー議員連盟会長、スタートアップ議員連盟会長を兼任。

上田 香川県などの地方都市の場合、「デジタル」と「シェアエコ」という観点ではどのような可能性があり、何を目指すべきでしょうか。

山口 web3はシェアエコの理念そのものと相性がいい。一方で、web3が進化したとしても人間の生活がデジタルで完結することはありえないのではないでしょうか。

地域の人たちがデジタルと親和性の高いシェアリングサービスを日常的に利用し、それが文化として形成されるかが大切になると思われます。

山口功作

香川県DXラボフェロー兼CDO補佐官
駐日エストニア共和国大使館にてエストニア投資庁、エストニア政府観光局を所管するエンタープライズ・エストニアの日本支局長を15年間務める。民間企業の社外取締役等を務める傍ら、DXアーキテクトとして地方自治体のアドバイスや講演活動を多数、行っている。総務省自治体DX検討会構成員、高松市スマートシティアドバイザー、かがわイノベーション推進アドバイザーを兼務。

平井 日本社会はもともと農耕社会で、分かち合いや助け合いを大切にしてきました。昔の人々はシェアエコそのものを当たり前のこととしてやってきていたのです。

ただ「それが経済活動だったのか」というと、当時はそうではなかった。それがデジタル社会が到来し、Airbnbなどといったシェアサービスが誕生しました。分散していた世のなかの需要と供給がマッチングできるようになり、経済活動として可能になったのです。個人的にも、シェアエコは日本人にもっとも向いているビジネスモデルだと思っています。

ビッグビジネスの根幹にあった「慈善精神のなぜ」

上田 アメリカと日本では、シェアエコの文脈にどんな違いがあるのでしょうか。

伊藤 まずアメリカと日本では、税制と寄付文化の違いがあります。日本では税金を分配する中央集権的な国家としての動きがありますが、アメリカの場合はコミュニティや慈善事業が多く、財団や民間がその機能を持ち大きな力を持っています。

お金持ちが寄付していると思われがちですが、宗教的な背景があり、実はお金がない人ほど寄付をしてるんです。教会というフロンティアがあり、昔から集めたお金を教会が分配する構造があったので、日本とはその感覚が少し違うんですね。

アメリカではいまでこそシェアエコが進んでいますが、Airbnbが事業化する前は儲からないビジネスだと思われていました。Airbnbのリードインベスターを務めていた友人のリード・ホフマンも、Airbnbを米VCのグレイロックパートナーズの投資委員会に提案したとき、全員に反対されたそうです。
「こんな馬鹿なものには投資しないけれど、一回は失敗してもいい」。そういった慈善精神で委員会のメンバーが嫌々投資をしてみたら、グレイロックの歴史上で一番儲かったビジネスになったんです。

伊藤穰一

伊藤穰一

デジタルガレージ取締役・チーフアーキテクト 千葉工業大学変革センター センター長
学生時代から初期インターネットに親しみ、1995年にデジタルガレージ創業。2011年~2019年、米マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボの所長を務め、デジタル通貨イニシアチブ(DCI)の設立を主導。クリエイティブコモンズの取締役会長兼最高経営責任者を務め、ニューヨーク・タイムズ、ソニー、Mozilla財団、The Open Source Initiative、ICANN、電子プライバシー情報センター(EPIC)などの取締役を歴任。デジタル庁Web3.0研究会構成員。

上田 地域の方たちの寄付で成り立っている財団もアメリカにはあるのでしょうか。

伊藤 大きい財団もありますが、昔からコミュニティ単位での寄付文化があります。アメリカの歴史を紐解くと、フロンティア時代は政府の手が届かないところで開拓が進んでいました。穀物の管理や動物の飼育などに必要な納屋を建設することを“Barn raising”と言い、コミュニティで全員一緒になって家を建てるノリや文化が歴史の浅いアメリカにはあったのです。

山口 フロンティアの話が出てきましたが、デジタルは人類に残された最後のフロンティアだと思っています。社会がどうなるかわからないところを進んでるので、デジタルをみんなでつくり上げていくことが大切で、その認識を一人ひとりが持つことが必要なのだと思います。

世界全体がデジタルに移行する理由

上田 平井さんは以前から「デジタル田園都市国家構想」について言及されていますが、こちらは日本政府が力を入れている施策なのでしょうか。

平井 まず、1979年に大平正芳総理(当時)が施政方針演説で言及した「田園都市の国家構想」をデジタルの時代で実現しようというのが「デジタル田園都市国家構想」です。これは中央集権か地方分権かという論争ではなくて、お互い助け合いながら役割分担を決め、国と地方とでパートナーシップに近い関係で発展していくというもの。

たとえば、「コンピューターシステムの構築と維持管理などのインフラは国家」「行政サービスをするためのアプリは自治体」というのが本来の姿であり、これがいま政府で取り組んでいるガバメントクラウドになります。

地域のことは地域で決めて、地域のみなさんの想う方向に持っていくのが正しいことでしょう。すでに各地域でのデジタル化、web3の取り組みも進んでいて、新潟県の山古志村はNFTを発行しているし、岩手県の紫波町が「web3タウン宣言」をするなど、実際にいろいろな自治体が走り出しています。

みなさんにも理解してほしいことの一つが、「なぜいま世界はデジタルに移行しているのか」ということです。歴史を辿ってみると、金が不足して藩札や貨幣になったように、それぞれ時代ごとに限界を迎え、人類は別の決済手段に移行してきました。そして、いまある実物経済もすでに限界がきていて、次の決済手段に移行しようとしています

地球資源の量は決まっているのに、人口が80億人を迎え、各国がお金だけを刷り、紙幣の行き場がないのが世界の現状です。そしてお金の価値を違うものに見つけようと、CO2やグリーンを売買する動きがありますが、これらはもはや実物経済ではありません。ビットコインなどの仮想通貨の出現で、デジタルによっていままで信用創造できなかったものができるようになり、投資対象がデジタルフィールドの中に広がったことがweb3の背景にあるのです。

香川県では高松市や三豊市がデジタル田園都市交付金の対象となった自治体で、これからスマートシティに取り組んでいく予定です。このデジタルとシェアエコの動きがうまく連携できれば地方が面白くなっていくでしょう。

パブリックチェーンで情報がつながる世界へ

上田 これから「シェアエコ」と「デジタル(web3)」の未来はどうなっていくのか、みなさんどのように捉えていますか。

伊藤 イーサリアムはNFTで使われる仮想通貨としてよく知られていますが、そのイーサリアム財団は、イーサリアムを「Protocol for human coordination」、つまり暗号通貨ではなく「イーサリアムとは人と人とをつなぐプロトコル」と定義しています。ブロックチェーンに人々がいろいろ書き込むことで、人間の行動を管理したり調整することに本当の価値を見出しているのです。

ブロックチェーンと言ってもピンとこない人もいますが、思い返してみるとメールもFAXも当時周りから受ける反応は同じようなものでした。自分だけ持っていても役に立たず、何が面白いのかわからないと言われたものです。それは、みんな使ってないから想像できない、役に立たないと思っているだけなんです。

これからブロックチェーンが普及していろいろ書き込めるようになり、その書き込み方が標準化されていくでしょう。どのマーケットでも売買できて、どのウォレットでも管理できて、TwiitterやFacebookでも見れるという標準化が大事になってきます。

その延長線上で、たとえばSNSもさまざまなプラットフォームに散らばっていたものが連動して一つで送受信できるようになるなど、これまでの構造に変化が起きるのです。スタートアップのチャンスでもありますね。

シェアエコの次のステップは、この全部がバブリックチェーンになり、すべての資産情報がつながるようになっていくこと。ブロックチェーンで誰でも見れて、誰でも売れて、誰でも検索できる。そんな時代が来ると、web2で一般ユーザーの発信そのものが価値になったような変革がweb3でも起きるようになります。

山口 この概念が浸透するとすごくフェアな世界を導き出せると思うので、人々の共感を呼ぶものになるのでしょうね。


「なんちゃってweb3」を乗り越えた先に、分散型社会は到来するのか

平井 契約書がネットのブロックチェーン上で保管できるのは安心や信頼につながります。バラバラにした状態から進めてしまうと、あとで集約するときにエネルギーがかかるので、これからはブロックチェーン同士がまずはつながるようにしておくことが大事ですね。

伊藤 いまweb3は、web2にたとえるとニフティサーブがあったインターネットになる前の時代と似ているんです。つなげようとする人たちと、新しいものをつくろうという人たち、この二つの方向性があります。web2の企業がつくっているプライベートチェーンでは、web3は広がりを見せないでしょう。まさにパブリックチェーンがキーになるのです。

web2では、オープンインターネットで無線やwifiによってすべて無料になろうとしていたものが電話会社になり、Eメールでコミュニケーションを一つにしようとしていたものがメッセンジャーになってしまい、実際は気がつかない間に人々が安くて楽しいものに流れてきた歴史があります。

そう考えると、大企業はweb3をクローズドに持っていくリスクがあるので、国家レベルにしないといけない。そうしないと「なんちゃってweb3」になって、分散型社会の実現はダメになる可能性もあります

山口 個人、そして地域やコミュニティごとの幸せ像、それらを明確にすることが大切なのだと思います。デジタルツールで実現化し、当たり前にしていきたいですね。

平井 経済成長で考えると、実物経済はまもなくその限界を迎えます。岸田政権の「新しい資本主義」では、デジタルの新しい領域を成長戦略にする戦略をとっていますが、実はいま世界中でそれを考えているのです。

人や世界に貢献できることがお金になる時代になったと考えるとわかりやすくて、経済成長を目指すなら、デジタル基盤のマーケットを拡大する以外の選択肢はないでしょう。

ビッグウェーブであるweb3の戦い方

上田 web3の新しいマーケットのサイズや経済規模は、どのくらいのものになるのでしょうか。

平井 これは無限につくれるレベルのものです。
2000年代からのメタバースの歴史のなかで、かつてセカンドライフが目指していたようなものがやっと実現しはじめているのです。NFTアートやMove to earnでメタバース上のスニーカーが高額で売れるようになったように、これから何が価値として認められるのかわからない。そして、みんなが認めるものがリアル空間よりつくりやすいので、どんどんデジタル空間にもさまざまなものが出てくるでしょう。

最近も、20代の日本人女性がつくったNFTアート「ギャルバース」が世界中から評価されています。そして、日本のクリエーターはこういった部分に強い。つくり手自身がどんな価値があるかわからないものだったとしても、周りが評価してくれるので、すべての人にチャンスがある時代になったのではないでしょうか。

山口 web3の市場規模の伸びで言うと、最初の段階はお金を出す人にとって投資のリターンが魅力的である状態でいいのでしょうね。それが当たり前になったときに、web2の経済規模を超えていく可能性が高いと思います。

伊藤 シード期の投資の話で例をとると、Googleは初期投資から34000倍になっています。Airbnbも同じように何万倍も伸びてきたんです。

僕自身もYouTubeの創業者から2005年にメールを受け取り実際に会っていました。そのとき投資していればすごいことになっていたのですが、特に印象に残らないような普通の人でも面白い会社をつくってスケールさせたりします。

この場合に大切なのは、最初からグローバルを狙うというのと、時代のビッグウェーブにどの段階で乗るのかということ。サーフィンで言うと、波が去ったあとに後ろから漕いでも意味がなくて、波の前で漕いで後ろから波が来るイメージですね。

web3はまだ役に立たないし使いづらいので、一般の人はまだ何もやらなくていいんです。付随のサービスを作るのであれば例外ですが、web3で34000倍のベンチャーにするためにビッグウェーブに乗ろうと思ったら、いま思いっきり漕いでないともう遅い

そこがスタートアップと中小企業の違いで、やるべきことも支援の仕方も違ってきます。そこで勝負をかけて1万社に1社でもいいので、34000倍の価値になる企業が日本から出てくるといいですよね。

 

構成・執筆:遠藤桂視子
編集:ヤマグチタツヤ

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2024年現在、国内200個を超えてあらゆる領域で導入が進んでいるDAO。立ち上げのコツは初期の構想と参加者のハードルを下げる仕組みにあります。ガイアックスでは、大手企業・自治体をはじめとする豊富つ先進的な支援実績をもとにDAO組成支援を行っています。

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上田 祐司
1974年大阪府生まれ、1997年同志社大学経済学部卒業。大学卒業後は起業を志し、ベンチャー支援を事業内容とする会社に入社。一年半後、同社を退社。1999年、24歳で株式会社ガイアックスを設立する。30歳で株式公開。 ガイアックスでは、「人と人をつなげる」のミッションの実現のため、ソーシャルメディア領域、シェアリングエコノミー領域に加え、web3/DAO領域にも注力し、分散型自律組織やコミュニティの分野を強化。また、新規事業・起業を支援するスタートアップスタジオとして社会課題の解決に取り組む。 一般社団法人シェアリングエコノミー協会の代表理事、株式会社Unitoの社外取締役を務める。

主な政府委員・登壇などの実績

・消費者庁 第3回デジタル・プラットフォーム企業が介在する消費者取引における 環境整備等に関する検討会(2020年)
・G1サミット2018 登壇(2019年)
・経団連 生活サービス委員会(2018年)
・日本学術会議 経営学委員会・総合工学委員会合同 サービス学分科会(2018年)
・総務省 地域IoT実装推進タスクフォース 地域資源活用分科会(2016年~2017年)

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