「学校を180度変える!」というコンセプトのもと、5年前の就任わずか4ヵ月で200もの課題を洗い出し、学校内のさまざまな課題解決にものすごいスピードで取り組んでいる、千代田区立麹町中学校の工藤勇一校長。その麹町中学のほぼ隣にあるNagatachoGRiDのガイアックス社内でも、「ぜひ詳しく話を聞きたい!」という声が多くあがり、今回代表である上田氏との対談が実現しました。自由でオープンな環境、リーダーシップ像、ルール作り…話を聞いていくと、2人には多くの共通点が見えてきました。

学校と会社の「ルール」とは、どうあるべきだとお考えですか?

工藤校長 学校には校則や禁止事項がたくさんあります。でも、「それって本当に必要なこと?なんのためにあるの?」この疑問は、私が中学生の頃から思っていたこと。ですから、私が校長に就任した5年前は、まずその見直しから始めました。たとえば、15の悪い行動を書き出し、先生たちに「あなたは、生徒がどれをしたらどう怒りますか?」というアンケートを取ったら、それぞれ怒るポイントがまったく違いましてね。物事の本質とは何か、これを教師陣で共有しないといけないなと改めて思い知らされました。

上田 僕も、世の中にあるルールは、基本無意味だと思っているので。会社に定時に出社するとか、副業禁止とか…。なので、今、私たちの会社では、出社時間も副業も自由ですし、最近では、会社で立ち上がってきた事業を子会社化して、担当している社員たちが一部の株式を個人所有することもOKにしています。

工藤校長 それはまた、面白い発想ですね!ルールとは「線を引くこと」。全校生徒にその線引きの感覚を調べてみたことがあって。結果は校則が厳しいと思う人(8割)、甘いと思う人(2割)でした。生徒には、「みんな感じ方が違って驚くでしょう。でもただそれだけのこと。所詮ルールは人の感性だから正解はない。だったら守ればいいんじゃない?」と。こう話すと大体の子が納得してくれます。

学校の制服を変える際も、「経済面と機能面」とだけ私からのお願いを伝えて、あとはすべて保護者主導で決めてもらったのですが、すごくよかった。“自分ごとにする経験”でルールは変えられるんです。

上田 なるほど。でも、僕も会社でのルール作りやトップダウンをどこまですべきか、日々考えているのですが、正解がない分すごく難しいですよね。

工藤校長は、学校集会でもパワーポイントを使って生徒にプレゼンをするそうですね。お二人が学校や会社でリーダーシップを取る上で心掛けていることとは?

上田社長 校長が生徒にパワポでプレゼンですか?新しいですね!

工藤校長 はい。生徒に話を聞いてもらうための工夫もしないといけないと思って。私のやり方は、最初はトップダウンで一定のビジョンを示して、その後生徒はもちろん、先生も保護者も巻き込んで、可能な限り全員を当事者に変えていく。これが組織を運営する上で大切なことだと考えています。

上田 まさに会社経営ですね。

工藤校長 ある3年生の授業で、「証券取引所への最年少上場記録」を紹介した際に、上田さんのことも話したことがありますよ。私の教え子の卒業生にもたくさんの起業家や社会で活躍する先輩がいましてね。たとえば、高校中退して20歳で起業して26歳で上場した子もいます。そんな話をよくしています。

上田 ありがとうございます。麹町中学の1年生が企業訪問でガイアックスにも来てくれるという話も聞きました。中学生に起業や会社の話をするのはなぜでしょうか?

工藤校長 「生徒たちには高校は通過点だと教えたくて。学校に来るのが目的なのではなくて、大人になることが目的だよ」とよく話をしています。たとえば、不登校の子には「中学に行かなくても高校や大学に行ける方法はあるし、問題ないよ」と言いますし、「将来やりたいことが見つかったら、別に学校に来なくてもいいよ」とも。実際、「囲碁のプロになりたいから、学校を休みたい(自分で勉強はする!)」という生徒に休学許可を出したら、1年後に戻ってきて、受験をして志望校に進学していった子がいましたね。その後、彼は囲碁のプロになりました。

上田 もはや、校長先生との中学生の会話とは思えません(笑)。一方で、学校が中退や進学しないことをすすめる、とも取れますが、その点は大丈夫なんでしょうか?

工藤校長 全員に「来なくてもいい」と言うわけじゃありませんから。やりたいことを見つけてその近道を行くためなら学校は応援する、というスタンスです。

上田 そうなんですね。僕が社員に「会社に来なくてもいい」と言っているのと似ていますね。来なくてもいい仕事ができるなら問題ないですから。一人一人を押すマネジメントは必要だけど、退職しても、転職してもいい。むしろ転職雑誌もどんどん見て、世の中の求人や社会の動きを知ってほしいと思っています。

僕は、社員の入社時にライフプランを聞くのですが、それがアグレッシブで夢いっぱいであるとすごく嬉しくなります。そういう人たちは退職する時期も早かったりするんですけど(笑)、将来お互いに有益な関係が築ければそれでいいと思っています。

学校も会社も自由でいい!? 社員研修も校内研修もオープン化する理由とはなんでしょう?

上田 とはいえ、「会社に来なくてもいい」=「じゃあ行かなくていいや、ラッキー」ではやっぱり困るわけで。ならば、会社としても来たくなるようなセミナーやイベントなどを積極的に企画して、「会社に来ると有益なことが得られる」という努力をしています。でも、せっかくなら社員以外の地域の人や興味がある社外の人にも参加してほしいとなりまして。今は社員研修もオープン化しています。

工藤校長 そうですか。実は麹町中学も、数年前から校内研修をオープン化しているんですが、今年は年6回の研修すべて公開講座のように実施しました。きっかけは、私を訪ねて来てくれた、脳神経科学者の青砥瑞人さん(㈱Dancing Einstein代表)なんですけどね、「これは面白い!」となりましてね。アメリカでは脳神経科学が教育や人材育成にもヒントになると注目されているんです。

他にも、私が尊敬する大阪市立大空小初代校長の木村泰子さん(不登校ゼロの奇跡の小学校を築いたと言われる教育界のカリスマ的存在。映画「みんなの学校」の校長先生。)なんかをゲストにお招きしたり。全国から参加してくれて、毎回とても面白い気づきが得られると評判です。こうした良い指導を整理していけば、これからの日本の教育が変えられるのではと思っています。

あとは、これはまだ私の構想段階なのですが、午後の授業を14時までに終わらせ、放課後の学校スペースを民間に貸し出して有効活用したり、先生も副業して何かを教えられたらいいな、なども考えていますね。もちろん、一介の校長が独断で出来るレベルではないので、国や自治体に働き掛けて、場合によっては法的な整備も必要な話です。生徒にも先生にも、地域にも、大げさに言えば国全体にも有益になる学校づくりが究極の目指す姿です。

麹町中 工藤校長

上田 まさにガイアックスのシェアオフィスのような発想ですね! 地域も社会も巻き込んでいくのは、素晴らしい取り組みだと思います。しかも公立中学でそれをやられていることに、本当に驚きますし、工藤校長の行動力には刺激を受けます。

最後に「これからの子どもたちに必要なこと」とはなんでしょう?

上田 自分で考えられる、前向きで能動的な子を期待しますね。これからのビジネスの世界でもどんどん活躍していける子どもたちを育ててほしいですね。

工藤校長 おっしゃる通りです。例えば人間関係調整力ひとつ取り上げても、基本は「みんな違っていい」「そもそも心は一つになんてならない」「人は簡単に仲良くなることはできない」ということがスタートです。

世の中には多様な人間がいて、さまざまな価値観、考え方がある。当然、対立が起こる。すると人はイライラする。だったら、感情をコントロールする力や対話力が必要だ、という感じです。子どもたちには、人は簡単に動いてくれるものではないということを自然に受け止め、そのうえで、戦略を練ることのできるスキルを学ばせたいものです。

麹町中学校での学びの具体例をあげますと、生徒たちは、自分たちで体育祭や文化祭を企画運営したり、JTBと連携して生徒たちがツアーを企画提案、プレゼンなどを行ったりしています。こうした取り組みの中で、対話を通して目的の合意形成する経験をさせることを目指しています。この対話プロセスこそが社会で協働して働くことができるようになる訓練だと考えます。その模様が朝日新聞で連載されていますので、よかったら見てみてください。

これからの時代は、社会に出て自由に起業したり、転職できる力が求められます。しっかりと自分の意志で進路選択できる子どもたちに成長してほしいと思います。

上田 ぜひ、そんな自立した子たちが将来ガイアックスに来てくれたら嬉しいですね。これからも同じ地域の会社として、何か面白い取り組みができたら嬉しいです。本日はお忙しい中ありがとうございました!

〇取材・文 加藤朋美 写真 Niko Lanzuisi