“人と人をつなげる”ソーシャルメディアとシェアリングエコノミーに注力するガイアックス。
独自の組織体系とユニークな経営で、新卒入社卒業生の6割が起業するスタジオとしても成長中。
代表の上田祐司氏が語る、事業立ち上げや起業を成功に導く、アントレプレナーシップとは何か。
シェアリングエコノミーの可能性
ガイアックスは、創業時から“赤の他人と赤の他人をつなげる”、“人と人が考えていることを通わせるコミュニケーションを促進させる”ことをミッションに事業を展開してきた。
1999年に設立後、現在はソーシャルメディアとシェアリングエコノミーに注力し、法人向けのBtoB事業、一般消費者向けのBtoC事業を拡大している。
上田社長は、シェアリングエコノミー協会の代表理事も務め「シェアリングエコノミーは、今後もっと広がっていくでしょう」と話す。ゲストとホスト、プラットフォーマーの三者で成り立っているのがシェアリングエコノミー。普通のビジネスでは、企業がコンシューマーにサービスを提供するが、シェアリングエコノミーでは、コンシューマー同士でサービスを提供しあう。
プラットフォーマーの役割はマッチングさせるだけで、基本は直接契約となる。
シェアリングエコノミーが立ち上がってきた理由は2つ。1つはソーシャルメディアが普及して、他人を信用できる世の中になったこと。もうひとつは、全てのモノがインターネットにつながる時代になったこと。
上田祐司(うえだ ゆうじ)
ガイアックス 代表執行役社長
1974年大阪府生まれ、1997年同志社大学経済学部卒業。大学卒業後は起業を志し、ベンチャー支援を事業内容とする会社に入社。一年半後、24歳で起業。30歳で上場を果たす。「人と人をつなげる」ミッション実現のため、 従来のソーシャルメディア事業に加え、シェアリングエコノ ミー事業や関連する企業への投資を強化。一般社団法人 シェアリングエコノミー協会の代表理事も務める。
「スマホがIoTの代わりをしています。僕の車はインターネットにつながっていないですが、運転している僕の胸ポケットに入っているスマホがUber(ウーバ-)を実現させる。世の中のモノが全部ネットにつながって、赤の他人同士を信じられるようになったら、企業がモノを用意してコンシューマーに提供しなくても、自分たちで信じ合って適当に助け合うことができる世の中になるのです」(上田氏)。
ガイアックスでは、シェアリングエコノミーのサービスとして、地元の人と交流ができる地域体験予約サイト『aini(旧:TABICA)』、外国人先生による家庭料理教室『Tadaku』、日本最大級の相乗りマッチング型ライドシェアサービス『notteco』などを展開する。
シェアリングエコノミーは“サービスレベルが低いのでは”という声があるが、「低いわけがない」と上田氏。
例えば、アメリカでは星付のレストランで働いていたシェフが自宅で料理を提供する。予約で1日ひとカップル。食事が終わってからも、シェフとじっくり話ができる。
「やる気のある仕事のできる人と、やる気のない仕事のできない人をマネジメントするのが経営です。シェアリングエコノミーでは、仕事のできない人は自然にマーケットから追い出されます。サービスレベルが低くなるわけがない。企業がサービスを提供するより、個人同士で助け合う方がはるかに効率的で、今後、社会にもっと広がっていくでしょう」(上田氏)。
立ち上げは一気に
大学を卒業後、ベンチャーキャピタルで1年半勤めた後、ガイアックスを起業した上田氏。
誰もが、起業する時には「お金もない、人もいない、強い商品もない、販路もない」状態からスタートする。
「何もなさすぎて、何もかもが進まない。その時に“周りから力を得られないなら自分でコツコツ頑張ろう”なんてことをすると、結果として100%勝てません。何もない三すくみ・四すくみの状態を突破するには、一気に行くしかないのです」(上田氏)。
24歳で起業し、25歳の時には4億円を調達した上田氏。約30人の投資家を呼び、説明した内容は“ビジネスプランはこう、取引先はこう、人員はこう確保し、商品はトップクラスの何々と独占契約します。お金以外は全部揃っています。ただ、今回4億円しか必要ありません。30社集まっていただきましたが2社か3社でOKです”。投資家にこのような強気な話しをする一方で、“今回4億円調達するからお金の心配はない”と優秀な人材を集める。
「ボロボロのくせに4億円だけ調達するなんて不可能。お金も人も商品も販路もマスコミも、全部一気に集めるから難易度が下がるのです」(上田氏)。
多くの人を巻き込めば、事業が失敗した時に、巻き込んだ人を地獄に落とすことになる。その怖さをどう乗り越え、一気にリソースを集めるかが、起業時のコツ。
「たくさんの人を巻き込んで、迷惑をかけるのが怖い。でも、それを乗り越え、この事業は絶対に世の中の役に立つと。そして、自分自身がこの事業に人生をかけられる。迷惑をかけるかもしれないけれど“手伝ってください”と強く訴えられるだけの感覚を持つことが必要です」(上田氏)。
赤の他人をつなげ、集合知を生み出す
新卒入社卒業生の実に6割が起業するというガイアックス。その組織文化は独特だ。同社では、従業員が自らのライフプランをもとに報酬テーブルを作る目標管理制度、業績のリアルタイム公開、 事業チームが企業として事業分離・独 立し、経営を担うカーブアウト・オプショ ン制度など、フリー・フラット・オー プンな組織を作り上げている。
さらに、申請すれば子会社化し、事 業メンバーに全株式の50%までのス トックオプションと、外部からの資金調達を含めた資本政策の決定権限を付与するカーブアウト制度や、本社ビル のコミュニティビル『Nagatacho GRiD』の執務室を社外にも公開する など、ユニークな経営を行なっている。
「うちの社員で独立した人間は多くいますが、フリーランスになっても、 結局その人間が頼りになる。ならば、 それらの人材に情報を開示しない手はない。彼らをOKすると、どこまでが 社員で、どこまでがOKなのか、線引きができなくなる。ならいっそのこと、 オフィスもオープンにしようと、 『Nagatacho GRiD』を作りました。 ここでは、社長の僕の隣に赤の他人が 座っています」(上田氏)。
“赤の他人と赤の他人をつなげる” ことで、多様な知識や視点や力を合わせ、集合知と言われる優れた価値を生み出す。ガイアックスの事業は、そうした未来を創り出すためにある。
出典:『月刊事業構想 2020年3月号』「”人と人をつなげる”事業構想 強い想いで周りを巻き込む 事業立ち上げを成功させる起業家精神」(事業構想大学院大学 出版部、2020年1月31日)。掲載記事を許可のうえ転載
https://www.projectdesign.jp/202003/concept-connects-people/007540.php