フルリモートへと働き方が変わり、個人、チームともに目標管理の手法も働き方に合わせたものへと適応することが求められるようになってきました。
リモート環境において、一人で仕事を進めることが多くなった分、数値的な目標設定だけではなく、組織が何のために存在し、どんなゴールを描いていくのかを共有することが、個人が孤立することなく、チームとして機能するための鍵となります。
そこで注目したいのがOKRという目標設定・管理手法です。この記事では、OKRを半年間導入したチームでの活用事例について解説します。
OKRとはどんな方法なのか
OKRとは目標の設定・管理方法のひとつで、Objectives and Key Results(目標と主要な結果)の略称です。
特徴としては、数値管理を主とした従来型の管理方法よりも、振り返りの頻度が高く、設定期間も短いものになります。また設定する目標は100%達成することを前提とするのではなく、70%程度の達成を目指すものとします。「がんばればできそうだ」という目標を設定することがOKRの特徴です。
OKRという手法は、アメリカのIntel社が初めて採用し、GoogleやLikedlenなどが取り入れ、話題となりました。インテルの元 CEO であるアンディグローブ氏は、自身の著書の中で、2つの問いに答える必要があると提示しています。
- 自分は何を目指したいのか。
- 目標までの到達度をどのように測ればよいか。
OKRは、Objectives(目標)とKey Results(主な結果)の2つの要素があり、上記の1つ目の問いはObjectives(OKRの”O”)にあたり、2つ目の問いはKey Results(OKRの”KR”)にあたります。
数値管理を主とした従来型の管理方法との決定的な違いは「自分たちは何者であり、何を目指しているのか」という問いを、メンバーと共有することにあります。
OKRを導入した背景
私たちのチームでは、2020年3月からOKRを導入しました。
導入した半年前は、新型コロナウィルスの影響で全員がリモートワークを行うことになり、また事業内容もピボットせざるを得ないというタイミングでした。今までは、飲食店を経営していましたが、飲食以外の新たなサービスを立ち上げることを決意し、立ち上げ準備をしていました。新たなサービスに関わりたいと挙手をしてくれたチームメンバーは5名。目指していきたい未来をなんとなく共有してはいるものの、実際にどんなことから手を付けていくか、というのは全員が手探りの状態でした。そこでOKRを設定することを目的に、対話を重ねました。
OKRを導入するときにやるべき3つのこと
未来会議を開いて描きたいゴールを明確にする
チームリーダーから事業の方向性について共有し、各メンバーもそれについてコメントしたり、メンバーからの視点を持ち込んだりして、事業全体の未来について話します。この会議は全員参加とし、全員で同じ方向を向く大事な対話の機会になります。3ヵ年、5ヵ年という中長期のビジョンまで視点を広げ、その後、短期的なビジョンに落とし込んでいきます。
Objectivesは”ワクワク”をベースに設定する
短期的なビジョンが見えたところで、Objectivesを設定します。「自分たちは何を目指したいのか」について、自分たちに適したワードを選定します。Objectivesを設定するときのポイントは、数値的な目標ではなく「来年、どんな状態になっているとワクワクするか」「どんな未来だとワクワクするのか」を考えることです。
Objectivesの設定が期初であれば1年という区切りとし、期中であれば期末までの期間と区切ると良いのではないでしょうか。
Key Resultsは100m先にあるゴールテープ
Objectivesを設定したあと、Key Results(KR)で定量的な数値設定をしていきます。イメージは、100m先にあるゴールテープみたいに「1位を取れるか分からないけれど、走ってみるぞ!」と思えることが大事です。前述の通り、設定するKRは、達成の実現可能性70%ぐらいもので「がんばればできそうだ!」というものにします。
設定したObjectivesを元に、「どういう数値を達成したら、Objectivesを達成したと言えるか」を、Key Results(KR)で決めていきます。事業状況、環境が変化することを考慮し、KRの設定期間は2〜3ヶ月間とするのがおすすめです。設定するKRの個数ですが、2〜3ヶ月間で3〜5個程度とし、KRを達成するための細かいタスクについては毎週のOKR振り返りミーティングで進捗状況を確認していきます。
ここで実際にどのようにOKRを設定していくのかを、私たちのチームの一つのサービスのOKRをご紹介しながら解説していきます。
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事業部ミッション:やさしさが連鎖する経済圏をつくる
提供サービス:オンライン料理教室
- Objectives
- 食事の悩みを抱えている人が、自炊を楽しめることで豊かな人生を過ごせるようになる、
- KR1
- ユーザーペインに沿った新しいレッスンが10個作れている
- KR2
- ユーザーアンケートを50名に実施できている
- KR3
- SNSの運用が始まり、LINE登録者が100名になっている
[今週のタスク]
- KR1
- 新メニュー試作(期限:10/21)
- KR1
- 試作メニューのレシピをレッスン計画表に記入(期限:10/22)
- KR2
- ユーザーとの日程調整(期限:10/23)
- KR3
- LINEでリッチメッセージ送付(期限:10/23)
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KRはポイントを絞り、具体的なタスクについては、タスク管理リストで週ごとに進捗を管理、評価をします。評価期間は1週間が適切です。
OKRミーティングは週2回、月曜朝と金曜夕方の2回設定することをおすすめします。月曜朝は、OKRを元に各自の今週のアクションについて確認します。金曜夕方は「Winセッション」とし、報告したアクションが予定通りに進んだことを共に喜び、褒めたたえる時間を持ちます。また、アクションのみに限らず、月1回は「今月のWin」と題して、一人のメンバーに対して他のチームメンバーから「Win」と思うことを共有します。日頃あまり口に出さない相手への感謝や尊敬する気持ちなどが出てくる、いい意味で予想外なあたたかい時間となります。
OKRの失敗も経験しました
実は2年前に半年ほどOKRを運用した経験がありましたが、うまく機能しなかったという経験をしました。その時のことを振り返ります。
イレギュラーが多発する現場ではOKRは後回しにされがち
当初決めたKRを達成しようとするも、イレギュラーが多発する現場においてはKRの達成よりもまず緊急度ならびに優先順位の高い事項が、タスクとして最上位に入ってきます。そうなるとKRを達成することよりも、イレギュラー対応だけで評価期間を迎えることになり、メンバーとしても達成できなかったという経験値が増え、OKRを運用することへのモチベーションが下がる要因になります。
ルーティンタスクを回す運用にOKRは適さない
ルーティンタスクを回すことを管理するためにOKRは適さないと考えます。一定の期間(2〜3ヶ月)でKRを設定し、運用を回すことを前提とした場合、ルーティンタスクを回す場合には、通年とおしてKRに大きな変化がありません。ルーティンタスクを管理するマネージャーにおいては機能しますが、担当者レベルで機能させるのは難しいと考えます。
OKRを導入して生まれた変化
OKRは心身ともに働くためのツールかもしれない
OKRを導入したことにより、チームで中長期ビジョンについて共有できる時間を持てたり、中長期ビジョンから導き出した短期ビジョンを元に「今、何をして」「どこに向かっているのか」を明確にできるので、チーム全体で一つのゴールに向かって走っている感覚を持っています。
チーム全体でOKRを設定することは、中長期的ビジョンと目先のやることが明確になります。数値管理を主としたKPIと異なる点は、数値のみの管理だけではないということです。数値を達成することが、何につながるのかを共有できていることがOKRです。
リモートワークへと働き方がシフトし、今までとチーム間でのコミュニケーションの取り方が変わってきました。今まで気軽に相談できたことも、リモートとなると相手のことが見えず相談することを控えてしまい、それが積み重なっていくと心理的負担が増え、仕事のパフォーマンス、ひいてはその人の人生に影響が出ることも考えられます。
だからこそ、私たちのチームは何を目指しているのかということを共有し、定期的にアクションを確認していくことで、個人ならびにチームのパフォーマンスを最大化していくことができます。
(ライター:樗木亜子)