大きく時代が揺れ動く中で働き方も多様化し、組織をマネジメントする立場にある方々は、新たなマネジメントスタイルを模索する機会も増えているのではないでしょうか。そして、正解のない問いに対する1つのアプローチとして、今改めてコーチング(*1) が脚光を浴びています。

ガイアックスでは2020年5月より社内コーチ制度を導入。また、自主自律型の組織を目指す方々を対象に経営コンサルティングやコーチングを提供する〈株式会社はぐくむ〉と連携し、コーチングに関するイベントや社内コーチコミュニティの運営を行い、組織にコーチングの文化を広めることを目指しています。

今回のイベントでは、(株)はぐくむの小寺さんをお招きして、「リモートワーク」という観点からお話を伺いました。1社につき2名以上でご参加いただき、社内での今後のアクションプランを議論していただく時間も設けました。
これからの時代で「管理統制型」から「自主自律型」へと会社を変革していくための組織のあり方を考えていきます。

モデレーターは、株式会社ガイアックスの社内コーチである荒井智子が担当しました。

*1: コーチングとは、相手の話に耳を傾け質問を重ねることにより、相手の潜在的にある想いや答えを引き出し、目標達成に向け行動変容を促すためのサポートです。

Takeshi.kodera

株式会社はぐくむ 代表取締役社長 小寺 毅さん
株式会社はぐくむにて、脱・ヒエラルキー、脱・指示命令コントロール型の組織を目指す方々を対象にした経営コンサルティング事業を展開。支援実績としては、Uber、DeNA、ガイアックスなど。 コーチとしては2006年から活動。現在は企業の社長や幹部を対象に1on1コーチングを実施している。コーチング研修の講師も務めている。 書籍『奇跡の経営』で知られ、『ティール』でも触れられているブラジルのセムコ社が、自社の経営スタイルを広めるために運営している「セムコスタイル・インスティチュート」。その組織の中で、日本には数人しかいない公式コンサルタントも務めている。

経営の大航海時代。組織に求められる変革とは?(前半プレゼン)

変化の時代において、組織はシフトすることを求められている

(荒井)リモートワークなど、新しい働き方が普及する中で、従来のマネジメントやコミュニケーション方法だと組織運営が難しくなってきていると感じています。
その中でコーチングというアプローチがどのように役立つのでしょうか?

(小寺)OS(オペレーティング・システム)とはコンピュータを管理するプログラムですが、組織もどんなOSを搭載するかによって、何を実現していくのかが変わります。OSに記載されている通りに動くし、記載されていないことは実現が難しい。そして、組織に搭載されているOSは各社各様です。風土や文化とも言えますね。
資本主義の中での代表的なOSは「売上・利益の最大化」でした。
しかし、新型コロナウィルスの感染拡大による影響もあり、望む望まないに関わらずに変化せざるをえないフェーズになってきました。多くの会社が一時的に出社できない状況となり、もともとリモートワークに縁のなかった会社さえも、新しい働き方にチャレンジするような年になりました。
何かが変わり始め、一部だけではなく、全体的なシフトが起こっているのではないでしょうか?

End of Management / Start of Self Management

(小寺)組織のあり方に着目すると、従来のマネジメントが終焉し、セルフマネジメントの始まりのタイミングがきていると感じています。「リモートワークでは部下の状況が見えず、マネジメントすることが難しい。」「本当に働いているのか?」と疑心暗鬼になってしまうという声も聞こえてきます。
一方で、余計なものが削ぎ落とされ、働きやすくなったという会社もあるでしょう。
従来の管理統制型のマネジメントではうまくいかなくなってきたり、独裁的なやり方ではうまくいかなくなり、デモクラシーの形の組織形態の方がうまくいっている印象があります。

  • End of Monarchy ▶︎ Start of Democracy
  • 管理統制 ▶︎ 自主自律
  • 機械的世界観 ▶︎ 生命体的世界観

(小寺)これまでは組織を機械のように捉えて、誰が抜けても不具合がないように構築することを良しとしてきました。組織が生産的・効率的に動くために必要だったことですが、やりすぎると弊害もあったのではないでしょうか。
そして、今は生命的世界観が台頭してきています。一人一人の命や人生を尊重し、その人がイキイキするやり方を、組織の利益が損なわれることなくどう実現していけるか。そのようにバランスを取りながら運営しているチームが増えてきています。

機械的世界観の中では、正解がありました。
しかし、今私たちが向かっているのは正解のない世界です。いろんなあり方があっていい。
「自分たちはどうありたいのか?」と模索し、試行錯誤していく時代に入ったと感じています。自分たちなりの新しいやり方を模索する人たちが航海に出て、自分たちの大陸を発見し、自分たちなりの「何か」を作り始めている。旧大陸で暮らしていけなくなるわけではなく、今までは「ない」と思っていた大陸がどうやらありそうだぞ、と。
選択肢が増えてきた時代において、今までは不可能だと思っていた組織のあり方が勃興しているのです。

生命的世界観の中におけるコーチングの役割

(小寺)2000年代始め頃にブームになった第一世代のコーチングでは、機械的世界観の中で、それぞれのパーツがより早くスムーズに回ることを支援するためにコーチングが使われることが多かったと思っています。
現在の第二世代のコーチングでは、個人の望む働き方をとらえ、一緒に育んでいくやり方が注目を集めています。そして、それを組織の中で行なっていくことがポイントなのです。
「会社の利益に繋がらないことはやらない」とされていたところから、「あなたがどういう存在で、どういう働き方を望んでいるのか」を大事にするようになってきました。

  • お飾りのビジョンやミッション ▶︎ Purpose
  • 指示命令や管理統制 ▶︎ Self Management
  • 仕事用の自分 ▶︎ Wholeness

これからの時代では、より個人のパーパス(目的・意図)が大事になってくるのです。
Wholenessとは、その人がどこにいても自分らしく、自分の全人格を持って関わることができるということ。本心を抑え込むのではなく、どこにいても等身大でいられるような関わり方が重要になってきます。経営の大航海時代においては、第二世代の関わり方が増えていくだろうと思っていますし、そうなることを期待しています。

【イベントレポート】「リアルからリモートへ」離れていてもメンバー全員が自律的に動ける組織マネジメントの在り方とは? 〜コーチングを取り入れた自主自律組織のはぐくみ方〜
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組織変革の事例と、変革を起こす際に必要なこと(後半プレゼン)

全ては対話から始まる

(小寺)組織が動いているフェーズでは、より組織内対話が必要になります。コーチングがソリューションということではなく、起きていることにどう適応していくかは、全て対話から始まるのです。「組織の中で何が対話されているのか」は組織の未来を方向付けます。その人が何を考えていて、何を話しているのか。上司であれば、部下に何を伝えているのか。自己内対話ではどんなお話をされているのか。何を話題にしていくのか?に注目したいですね。

対話とは大事なテーマだと思うことにスポットライトを当てるアプローチだと思っています。「何のために働くか?」「何のために生きるか?」そういうところにスポットライトを当てて考えていく。そこについての思いが語られていく時間になります。
パーパスにスポットライトが当たらなければ、そこに対する理解は深まらず、そこからの進化は生まれません。
正解のない時代だからこそ、組織の中でどんな対話がなされているのか、組織の中で何が生み出されているのか。どんなことに興味関心がある人たちなのか?というところから見ていただくのがいいと思います。
自分たちがどこに船を進めていくのか、どういう世界観の中で暮らしたいのか、自分たちにとってエキサイティングでハッピーな暮らし方や働き方を対話していきましょう。
自分たちで対話をしながら、自分たちにとって大切なことが発掘・発見されていくと、組織が生き生きしてくるのではないでしょうか?
「ただのコミュニケーションではなく対話があるか?」
対話的であることは、立場関係なく誰でもいつでも気軽に話せることです。すぐ否定されたりすると、対話的な場にはなりません。

管理統制から自主自律への航海:ABN AMROの場合

(小寺)社内コーチ制度を取り入れて組織変革を起こした事例をご紹介します。

【ABN AMRO】

  • 1991年(合併年度)設立
  • オランダを代表するメガバンク
  • 売上高228億ユーロ(約2兆6400億円)
  • 従業員数はおよそ10万人

ABN AMROは、階層をなくしセルフオーガナイズチームに変革して行きました。支店長のいない支店を作り上げています。「ありえない」といった意見をたくさんいただきますが、事実としてオランダではこの形で運用されており、支持されているのです。

ABN AMROが新設した「3つのコーチ職」と、変革の結果

(小寺)ABN AMROでは役職を撤廃し、「スキルコーチ」「チームコーチ」「スキルリード」の3つのコーチ職を設けて支店運営を行っています。

【スキルコーチ】
銀行の仕事を進めていく上で、必要に応じてトレーニングに当たる。本人が仕事をする上で「もっとこういうところを伸ばしたい」と申し出て初めて、コーチとのマッチングが始まる。

【チームコーチ】
ファシリテーター的存在。メンバー個人のメンタルや、ライフコーチ的に全般を扱うコーチ。パーパスやホールネスを扱うことに長けている。

【スキルリード】
従来の管理職に近い。チーム全体の雰囲気やパフォーマンスを捉えながら、銀行業としてふさわしいパソーマンスができているか、目指しているKPIに達成しているかを見てチームに関わる存在。チーム間の調整や視点の調整を担う。

(小寺)変革の結果、どんなことが起こったのでしょうか?

  • 97%の社員が重要な意思決定をする際に顧客について考えるようになった(昨年対比+30%)
  • ビジネスがよりシンプルに実行されるようになった(2018年の売上目標達成)
  • 心理的安全性を表すスコアが平均よりも高評価
  • 社員エンゲージメントは依然として80%のまま

などの結果が出ています。
オランダは教育などに関しても、自主自律を促すようなやり方がなされているという前提はあります。それにしても、銀行でさえできているのですから、規模や業界問わず、変革は可能なのです。

参加者の方からの質問と小寺さんの回答

小寺さんのプレゼンの後、2度ブレイクアウトルームに分かれて議論する時間を設けました。それぞれテーマは「会社の現状とゴールについて」と「社内やチームにおいて来年どんなトライをしたいか?」というもの。

ブレイクアウトルームでの議論を経て、参加者の方から出た質問と小寺さんの回答をご紹介します。

Q.マネジメントする側が「自律型組織にしたい」と思ったとしても、人はいきなり自律的にならないと思います。どのようにみんなをうまく流れに乗せたのでしょうか?

(小寺)変革は変革を志すリーダーの存在から始まり、「絶対に成し遂げたい」と志す存在が一人でもいないことには、成し得ません。ABN AMROの場合は、取締役の一人が自分の進退をかけて取り組むといったことから始まりました。彼は「この変革が起きなければABN AMROの未来はない」と危機感を持って取り組み始めたのです。オランダの場合は規制改正も早いので、フィンテックが伸びてきて顧客離れが起きていました。そんな危機意識を持って、彼は色んなコンサル会社に話を聞きにいき、コンペを始め、私が関わっている会社がコンペで受注しました。なぜその会社が勝ったかというと、彼曰く「最も違和感があった」から。これまでに聞いたことがなく、いわゆる「まとも」ではなかった。そこに可能性を感じたそうです。
最初は支店長クラスの人たちは否定的だったそうですが、「賛同しないなら抜けてくれ」と、血の入れ替えをしました。200数十名いた支店長の内、9割が会社を離れました。そこから新しい方向性や未来のビジョンに共感した人の中から研修を施し、まずは5つの店舗から段階的に展開する支店を増やしていきました。

(荒井)「やる」と決めてから、仕組みが入れ替わるまでの期間はどのくらいだったのでしょうか?

(小寺)構想準備期間はヒアリングする期間も含めて1年間でした。トップリーダーの決断と、決断に基づいた意思決定があり、この段階では「乗るか乗らないか」ということも大事だと思っています。

Q.心理的安全性のスコアはどのように測っているのでしょうか?また、多様性を享受できるような仕組みはありますか?

(小寺)ABN AMROはアセスメントツールを作って運用しています。多様性の担保については、まず文化的背景が日本とは違うのですが、対話慣れしている文化がオランダにはあるんです。特に教育現場では「昨日何があったか?」をシェアするところから、クラスが始まる学校が多い。それに近しい形で、会社で一見仕事に関係ないようなパーソナルな話を分かち合うことが多様性の担保に繋がっていると思います。

Q.今は会社としての方向性を作っている段階で、自律に向かう前の段階なのかもしれない。コミュニケーションを活性化したりする土台を醸成していく上で、何か事例はありますか?

(小寺)スタートアップなど「今から」という会社に関しては、対話の場やお互いのことを知っていく場を作ることから始めるのがおすすめです。対話の場作りにファシリテーターを置き、いい問いかけがあったり、アクティビティ形式に相互に協力することを体感する機会を持つこと。業務内容よりもパーソナリティやバックグラウンドを共有していくことに重点を置くのがいいと思っています。

Q.小寺さんが学校変革に取り組むとしたらどこから取り組みますか?

(小寺)教育変革は個人的にとても大事なことだと思っています。まだ実際の現場には携わっていないので現場感がないのですが、現場感がないときにこそ対話から始めたいですね。まずは当事者である人にヒアリングをすること。できる限りヒアリングして、現状を捉えた上で何を行うかを考えていきたい。次にやるだろうと思うことは、レイヤーをまたいでお話しをする機会を作ること。「うまくいかない」と思うことは、断絶や相互理解の不足から起こっていることが多いです。繋がる場を作り、きちんと循環させていくこと。そこから生まれる物の中で未来のデザインを考えていきたいですね。

参加者の方の感想

  • それぞれの会社のフェーズは違っていて、色んな状態がある。環境に順応する人がいるから組織が回るところもあるので、状況に合わせてコーチングを取り入れていきたいと思った。
  • 他の会社の状況を聞けて参考になるものがあった。あとは、社内のメンバーと現状やこれからのことを話す場を作れたのが良かった色々とヒントになりそうなものをもらえた。

YouTube・Twitter はじめました

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◆ はぐくむ×ガイアックスのコーチングチャンネル

株式会社はぐくむ代表取締役の小寺毅さんとガイアックス社内コーチの荒井智子が、【コーチング / 自律的組織 / リーダーシップ】 などについて語り合います
https://www.youtube.com/channel/UCfYamHWkSK4CGHofcCfHYIw

◆ ガイアックス社内コーチチームの公式Twitter

https://twitter.com/gx_coaching


荒井 智子

荒井 智子

2013年4月にガイアックスに入社し、2年間法人営業・海外営業を担当。2015年に「働く人の心と身体を健康にしたい!」と会社に訴え、社内でケータリング型社員食堂をスタート。2017年、社員食堂を進化させた形でNagatacho GRiDにカフェtiny peace kitchenをオープン。